「いつもの千雪ちゃんなら、そんなことを言われてただ引き下がるとは思えない。やっぱ、小夜子さんのことがあるからだろ、何も言わないで出てったのは」
それを聞くと、京助は渋い表情で、「かもな」と言った。
仮にそうだとしても、いずれにせよ千雪が研二を選ぶのならどうであろうと意味はない。
疲れた顔をしていた。
抱きしめたかった。
だがあいにく俺は包帯なんか巻かれて、ざまあないよな。
「何だよ、そのあっさりした、かもな、は」
「フン」
京助は鼻で笑い、ベッドに横になった。
速水はどうやらもう話すつもりがないらしい悪友を睨み付けると、「まあいい。今夜はゆっくり休め」と言いおいて部屋を出た。
「何なんだ一体! 歯車がどっかで狂ったまま動いてるって感じだ」
ドアを閉めた速水は大きく息を吐いて、部屋を離れた。
「まあ………人のことに口を挟んでも仕方ないっちゃ、そうだが」
ブツブツと呟きながら、白い壁に囲まれた廊下を歩く速水の足取りは重かった。
東京に向かう時とは打って変わって、千雪には雲がかかった富士山の姿を見る余裕さえあった。
いつの間にか雨は止み、新幹線の窓からは日差しも見えていた。
「あんな頑丈なやつがそう簡単にくたばるわけないわな」
隣に誰もいないとはいえ思わず笑ってしまう程、千雪は京助の怪我が骨折さえなかったことにほっとしていた。
菊子から電話とラインが入っていて、京助の怪我のことを聞いてきたので、無事で明日は退院らしいとラインを返しておいた。
うつらうつらしているうちにあっという間に新幹線は京都に着き、千雪は慌てて降りた。
腹が減っていることを思い出し、売店で美味そうな駅弁を買うと、タクシーに乗った。
「千雪くん、おるん?」
通りに灯りが灯り始めた頃、家に戻ってダイニングで弁当を食べていた千雪は、玄関が開く音で振り返った。
「おるよ」
千雪は声を上げた。
するとバタバタと入ってくる音がして、菊子が現れた。
「もう、全然携帯でぇへんし、心配するやろ!」
息を切らして怒鳴る菊子を、千雪は箸を置いて振り仰いだ。
「ラインしたやろ」
のんびりと答える千雪に、菊子ははあ、と大仰に息を吐いた。
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