「………それで、京助さんは? 怪我は?」
あらためて菊子が尋ねた。
「やから、ピンピンしてて、心配して損したわ。今夜一晩泊まるらしいけど」
千雪はまた弁当に取り掛かった。
「今朝から何も食べてへんかったから、も、腹減って」
菊子はダイニングテーブルの向かいに座って頬杖をついた。
弁当を食べ終えると、千雪はマグカップのお茶を飲んだ。
「ほんで、いつ向こう戻るん?」
「明日戻るわ。ええ加減、車、辻に返さなあかんし」
菊子はガッカリした顔で、「やっぱ帰るんや」と言った。
「何?」
「うち、一人になってしもて、寂しいわ」
千雪は菊子を見た。
「ひとりって、菊ちゃん……」
研二、江美子と千雪は家がすぐ近所の幼馴染だが、菊子は少し家が離れていて、小学校の高学年くらいからだろうか、江美子と同じクラスになった菊子が加わった感じだった。
それからずっと高校まで一緒で、江美子と菊子は一緒に美術短大に進学し、二人は大親友だった。
そんな江美子がいきなりいなくなり、千雪は高校卒業して以来東京、研二も上京してしまったわけだ。
「ほな、菊ちゃんも上京する?」
「うーん、それもええかもねえ」
菊子はフフっと笑う。
「何もかも変わってしまうんやな」
「うん、そやねえ」
しみじみと千雪と菊子は頷き合った。
のぼりに派手なコピーが風にはためき、外国車がずらりと並んでいる。
横須賀にある中古車販売会社の応接室で、千雪はコーヒーを飲んでいた。
「お待たせぇ」
最近栗色に染めたらしい長めの髪を首の後ろでポニーテールにした辻は、ダークスーツに身を包み、千雪を見るとニヤリと笑った。
「ホストやん、それ、もろ」
「っぽいやろ? ご婦人方には人気あるんや」
「ほんで、コロッと騙されて気がつくと車買わされてるいうわけやな」
「おいおい、騙されてやなんて人聞きの悪い」
辻はテーブルを挟んで向かいに腰を降ろすと、「なかなかの乗り心地やったろ」と自慢気に言った。
「せやな」
「京都、行ったんか?」
「江美ちゃんとこ、線香あげてきた」
すると辻は真顔になった。
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