メリーゴーランド350

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「いつまでも引きずっとると、前が見えへんようになるで」
「経験者みたいな口ぶりやな」
「大学二年の時、友達以上恋人未満みたいな彼女がな、バイクで事故って逝きよって、しばらく幽霊やっとったわ」
 辻は首を横に振る。
「何か、人間みたいやん、辻」
「悪かったやん。一応人間やっとるわ」
 千雪は苦笑した。
「江美ちゃんの子が元気に大きうなってたわ」
「そうか。親にはそれがまだ救いやな」
 辻は頷いた。
「そんで、どうする? 車。気に入ったんなら、譲ってやってもええで?」
「今はやめとくわ」
「そっか。ま、その気になったら連絡くれ」
 辻は必要以上に押し付けることもなく、千雪を送り出した。
「おい、今度また一人旅したい時はちゃんと行先言って行けよ」
 千雪は振り返って、「ほな、な」と笑った。
 辻の会社からタクシーを拾って横須賀駅に向かうと、横須賀線で新橋に出て銀座線に乗り換え、銀座で降りる。
 地上に出ると寒いので、地下道を日比谷方面に向って歩く。
 すると千雪のポケットで携帯が鳴った。
 一応今日は電車を降りてから携帯の電源を入れておいたのだが、小夜子からだった。
「ああ、うん、さっき京都から戻ってきた。あとで店の方寄るわ」
 千雪の言葉に、携帯の向こうで小夜子がほっとしたように、待ってるわと言った。
 芝ビルに着くと、エレベーターで『やさか』のある四階に上がった。
「おう、戻ってきたんか」
 店のドアを開けると、ちょうどレジに立っていた研二が笑顔を向けた。
 店内は少し混んでいたが、ちょうど席を立つ客があった。
 スタッフに案内されて、千雪はガラス張り側の席に落ち着いた。
 千雪が好きなクリーム白玉あんみつを食べ終えてしばらくすると、少し客足が引いたので、研二がコーヒーを手にやってきた。
「本店で買うた土産、あとで小夜ねえに届けるわ」
「なんやね、それ」
 研二が笑う。
「菊ちゃんが寂しがっとった。みんなこっち来てもうてて」
「せやなあ」
 研二は頷いたが、言外に江美子がいない寂しさを思い起こさせる。
「まあ、また正月には帰るし」
「研二、休み取れるんか?」
「三十一日は早めに終わって一日くらい、あとはシフト組んでからやなあ」
「帰ってもとんぼ返りやん」
「しゃあないなあ。千雪はどないすんの?」
「うーん、俺は今帰ったしなあ。何も考えてないけど」
 そうや、何も考えてない。

 


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