正月どころか、これから先のことも、何も。
どこで、何したらええんや、俺。
「今夜は、何か予定あるんか?」
「そこからして何も考えてないわ」
「ほな、うちでメシ、食うか? 少し遅うなってもええなら」
研二の申し出に、千雪は一呼吸おいた。
「ええで」
ようやく答えた千雪に、「九時半くらいには帰れる思う」と言うと、研二はバックヤードに戻って行った。
誘ってくれた研二はいつも通りで、何のわだかまりもないようにみえて、千雪は素直によかったと思った。
甘味は蜜の量などで加減ができるようになっているものの、クリーム白玉あんみつは目いっぱい甘く、食べた後のコーヒーはとても美味かった。
京助、もう退院したんやろな。
ひょっとしたらもう、あいつのことや、大学行ってるかもな。
胸のつかえが一つ一つ降りていくように軽くなっていく。
昨日も京助は既に、とっとと病院など出て行きたそうにしていた。
それはわかる。
病院なんて行きたいと思う場所ではない。
前に病院なんか嫌いだという話で妙に気が合ったのを思い出した。
そもそも医学部を出たくせに、病院が嫌いなんて変なヤツやと、千雪は思ったものだ。
千雪が病院の白い建物が嫌いになったのは母が息を引き取った時からだ。
トラウマという程のこともないが、出来ればあまり近寄りたい場所ではない。
千雪はやさかを出ると、日本橋の大和屋へと足を向けた。
店舗の方から入って行くと、馴染みのスタッフがすぐに小夜子を呼んでくれた。
小夜子は奥の応接室に千雪を招き入れ、千雪が京都のやさか本店で買ってきた和菓子を食べようと言ってお茶を入れた。
「俺、たった今、研二の店であんみつ食うてきたから、お茶だけでええわ」
「あら、一つくらい平気でしょ? やさかさんのは上品な甘味で、ほんとに美味しいもの」
とても食べられないだろうと思っていた千雪だが、味噌あんの餅菓子を小皿に乗せて差し出されると、つい手を伸ばしていた。
「やさかのおやっさんらから、小夜ねえにくれぐれもよろしゅうにて、言われた」
「こちらこそだわ。ほんとはお礼に伺いたいところだけど、予定がいろいろで」
「まあ、おやっさんの好きそうな吟醸酒、手土産に持ってったし」
「お酒お好きなの? じゃあ、お歳暮はお酒にしようかしら」
小夜子は忙しいという割には笑顔が溌溂として見えた。
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