メリーゴーランド35

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 バツイチ同士であれ、披露宴を大々的にやらざるを得ないのは、東洋グループの重鎮にいる者としての宿命で、さらに小夜子もまたいずれ大和屋を背負うことになる者としての宿命なのだ。
 だから式だけはシンプルに、と小夜子も紫紀も思っているのだが、式も日本でというのが双方の両親の意見で、折り合いがついていない。
「家族だけやったら、俺は………」
「千雪ちゃんもちゃんとパリに招待するわ」
 秋にパリなんかに行っている暇は多分ないと思う千雪の意見は聞いてもらえなさそうだ。
 パーティ会場はエアコンフル稼働のはずだが、熱気に包まれていて、足を踏み入れただけでも、空気が変わるのがわかる。
 そして出席者の中には原夏緒の展覧会のパーティでも見られた、華道家元の娘五所乃尾理香や洋画家中川幾馬とその孫娘でモデルの中川アスカの顔があった。
 さらにまたかよ、と思ったのが、日向野奈々子だ。
 九条祐紀と談笑しているT大学理事長とともに出席しているらしい。
『バツイチとはいえ、大和屋の小夜子さんといえば、財界でも群を抜いた美貌は知れ渡っておりましたからまだご主人の喪も明けぬうちから、縁談が持ち込まれたという話でしたが、何とここにきて、特上の相手をうまく射止めましたな』
『あら、これ以上ない美男美女でよござんすわ、何とか新聞なぞにすっぱ抜かれたり、芸能人みたいな扱いでしたけど、何といっても東洋グループの次の顔となる方ですもの、美しい奥方に越したことはありませんし』
『次は京助さんだろう、いくらモテるといっても女遊びもほどほどにして、いい加減彼も身を固めることを考えないとね』
『いや、華道家元のとこの理香さんや、最近じゃあの日向野ってほら、西山産業の社長令嬢まで両天秤で、次男はいい気なもんですな、あれは当分身を固めるような気はないんじゃないですかね?』
 どこからともなく、聞きたくもない話が耳に入ってくる。
 特に千雪のように、どこの誰ともわからないような人相風体で歩いていると、まさかその次男の近しい人間だなどとは思いもよらず存在すら認められずに、平気で言いたいことを言ってくれる。
 あらゆる意味でイラついたのは千雪だけではない、京助も日向野を見た途端不機嫌な顔になった。
 自分に近づきたいばかりの彼女の存在自体がうるさい上に、千雪がまた不快になり、京助に文句をつけてくるに違いないからだ。


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