「おおきに。ちょうどええわ、アヒージョ作ったんや」
「アヒージョ?」
美味そうな匂いがキッチンから流れてくる。
「鶏肉と海老で作ってみたんや」
研二は上京してから、和食だけでなく料理のレパートリーをかなり増やしたようだ。
アヒージョは温かくて美味かったし、最近気に入っているというパン屋のパンはバターがなくても十分美味い。
玉ねぎとトマトのサラダは酸味が効いて、オイリーな料理にはちょうどいい。
これにワインがうまく合って、いつになく千雪は饒舌になった。
象潟の海の傍にあった西施像は、明らかに芭蕉の足跡というだけのために近年作られたものだろうし、中国の美人像がいきなり現れるというのもちょっと考えればおかしな話だ、芭蕉が実際旅をしたのは春から夏にかけてだったわけで、寒さに震えながら夏草や~などという句碑を読むのも妙な感じだった、などという東北の一人旅の話から、京都では菊子にみんな東京にいってもて、おもろないと文句を言われたことまで、思いつくままに千雪は話した。
「そら、俺も見てみたいな。東北に中国美人か」
「海は鈍色でよかったで。メチャ寒かったけどな」
「青い海やないのんがええいうお前の感性がおもろいわ」
ワインとチーズを持ってリビングのソファに移動して二人は並んで座る。
「菊ちゃんもこっち遊びきたらええやん」
ワインをグラスに注ぎながら研二が言う。
「ディズニーランド、連れてけ言われるで?」
「くたびれた身体には、そら、きっついな」
千雪におどかされて研二は笑った。
「そういえば世界史の兼松覚えとおるやろ? お前が追い出した」
「人聞きの悪い、ただ異動になっただけやん。兼松がどないしたん?」
さっきちらりと思い出していた教師の名前を言われ、千雪は怪訝な顔をした。
「あいつ京都南の教頭になったらしいで」
「そら、京都南のやつら難儀なこっちゃ」
京都南高校は千雪らが通っていた祇園高校に近い進学校だ。
「安井の妹が今そこの三年らしうて」
「まあ、教頭やったら、実害はそうないン違う?」
「せや、それより荒木田っていたやん、化学の」
「ああ、ええ年して一人もんやとか兼松にいじめられとった人のええセンセ」
「ついに結婚したってよ。しかも教え子と」
「ほんまに? そらメデタイやん」
「今、東高におるらしいで」
教師らの消息から高校時代、中学時代の話へと、過去へ戻っていくかのように語り出すときりがないように思えた。
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