「あ、そや、山下先輩」
「山下先輩?」
その名前は千雪にとってはあまりいい響きを感じられない、高校一年の時の剣道部主将だ。
「十一月の全日本で準優勝やったやろ?」
「ほんまに? 知らんかった」
「京都府警のキャリア組らしいけど」
「フーン」
「何やまだネに持っとんのんか?」
山下に千雪が扱かれた話は、軽井沢に行った時にも話題になったのだが、千雪を狙う上級生から盾になるためにわざと千雪だけ扱いたという。
「お前らの話が信ぴょう性があるもんやとしてもや、山下先輩が俺にきつうあたったんはそれだけやなかったかも知れんし、先輩しかわからんこっちゃ」
千雪は眉を顰めて言った。
「まあ、この先、顔を合わせることもそうないやろしな」
「剣道部のOB会とかで、顔合わせるか知れん」
「そん時はそん時や」
研二は山下に対して頑なになる千雪を見て笑う。
「昔はよかったな……昔に戻りたい……」
千雪はボソリと言った。
そんな千雪を見つめて研二は、「せやな」と言った。
「千雪……」
呼ばれて振り返った千雪に研二は優しくキスした。
一度離れた唇は再びさらに深く口づけた。
「ずっとこうして…………」
研二は千雪を離すと、愛おし気にその頬に手を置いた。
「お前を抱きしめていたかった」
千雪の目を覗き込むように、研二は笑みを浮かべた。
千雪は研二の言葉が引っ掛かった。
「……俺はずっと……お前と一緒にいたい」
「千雪……俺は……誰にもお前に触れさせとうない…へたすると……俺だけのものにしとうなる…お前を閉じ込めて…もうずっと……」
千雪は目を見開いた。
「研二……俺はずっと傍にいる…お前の…」
だが研二は首を横に振っていた。
「……あかん……」
「え……?」
「……あかん……お前は俺の傍にいたらあかんのや……」
「何、言うて! 俺は……」
「お前を俺のもんにしたいばっかで……それが俺の本性や。お前を狙うとった奴ら蹴散らしたんも、お前が欲しかったからや……」
研二は千雪を再び抱きしめた。
「研二、研二……俺はお前ともう離れとうない!」
千雪は研二の言葉にひどく突き詰めた思いを感じた。
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