「俺はそのうちお前を壊してまうんやないかて、己が怖うなって……」
研二の腕を千雪はきつく指で掴んだ。
「俺は逃げたんや」
苦しそうな表情で研二は言った。
「それやのに、こうしてまたお前と一緒にいられた……」
「これからもお前と一緒にいるし!」
「いや……」
研二はまた首を横に振った。
「お前は京助さんと帰るんや」
千雪は驚いた。
「何言うてんね!」
「マジに言うてる」
「俺はこれからもお前といる!」
「千雪………」
研二はしばし口を噤んだ。
「お前を好きや。ずっとや……お前も俺のことを好きやて、俺も知っとる」
「そうやて言うてるやろ!」
「お前は、離婚して、一人になって、こっちに一人で生きることになった俺を可哀そうに思っただけや……」
「そんなんやない!」
「せえけど、もし、京助さんが事故ったやなんて聞いたら、お前は何をおいても飛んでいく」
「それは……」
千雪は一瞬言葉を失くした。
「千雪、俺はお前と短い時間やったけど、一緒におられて幸せやった。もう一生分幸せをもろたくらいや」
「何大げさなこと言うてんね。俺は全然あんなん足りん! たった数日や!」
千雪は抗議した。
「それでも俺にはもう……」
その時ドアのチャイムが鳴った。
「過ぎてもうた時間は戻らへん、千雪」
研二は自虐的な笑みを浮かべた。
「俺は、お前から逃げてもうた……それが事実や」
「それこそ昔の話やろが! アホ!」
「そうや、俺はドアホや。もし、生まれ変わることがあったら、次は絶対逃げたりはせえへん」
「生まれ変わらんでもええわ! 次なんかどうでもええ! 研二は研二やろ!」
喚き散らす千雪には答えず、研二は玄関に向かいドアを開けた。
ドアの向こうには京助が立っていた。
「京助さん、迎えにきたで」
研二は千雪の腕を掴んで京助に押し付けた。
「お前! 人を物みたいに!」
千雪を抱きとめた京助は苦い表情をしていた。
研二は千雪のコートとバッグ、それにスニーカーを千雪に差し出した。
「いやや! 俺は行かん!」
途端、ボロボロと千雪の目から涙が溢れだした。
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