「本まで持ってきたのか?」
「ああ、これ、研二ンとこに置きッパやったもん、夕べ取ってきた」
研二という名前には、京助はどうしても反応せざるを得ない。
先週になるが、あんな別れ方をしたら、もうしばらくは顔を合わせづらいだろうと思うのだが、あの後、千雪は小夜子と一緒に研二の店に行ったらしいし、電話でも研二とまるで何ごともなかったかのように話をしている。
昨夜は同級生らで研二の部屋に集まってクリパをやる相談をしていた。
あの夜、もうこれ以上は涙はでないだろうというくらい大泣きした千雪を、京助は自分の部屋に連れ帰って寝かせた。
翌日はほぼ一日ゴロゴロしていたようだが、夜になると妙に元気な顔で、「カレー作った。食うやろ?」などと笑顔で京助を出迎えた。
以来ずっと京助の部屋にいるのだが、一見、何か吹っ切れたような表情で、洗濯機を回したり、本を読んだりしている。
千雪の中で何かしらの折り合いがついたのかどうか、千雪が何か話したくなればいくらでも聞く用意はあるが、京助は無理には何も聞くつもりはない。
たまにアパートにも寄ってくるようで、衣類やノートパソコンやタブレットなども持って来て、リビングでネットを見たりしていることもある。
千雪のアパートでなく京助の部屋だという以外、まるで以前に戻ったかのような毎日だ。
第一、最初の一日くらいは千雪に触れもしなかった京助だが、疲れて帰って来てワインでも飲んだ日には、千雪を放っておくことなど無理な相談だった。
無論、千雪が拒むのなら話は別だったが、むしろ京助に縋ってきた千雪をかなり久しぶりに抱いた。
ただ、研二に抱かれただろうことが時折頭の隅にチラついて、ついしつこくなってしまったのは否めない。
「京助くん、煙草本数が増える時って、何かトラブったりしてるよね」
仕事をしていてもたまに千雪が部屋にいるのかと気になってしまい、外で無暗に煙草をふかしているところを同僚の牧村久美に見つかってからかわれた。
やたら電話したり、ラインしたりすると、千雪にうるさがられるに決まっている。
牧村は法医学研究室の紅一点で、年齢は京助と同じだが、京助はK大に行っていたこともあり、先輩格になる。
美人というわけではないが、サバサバした気の置けない仲間だ。
「トラブったりってわけじゃねぇよ」
「そういえば、あれ、留学の件、ほんと?」
「うーん、まだわからねぇ」
「富永教授、もうその気になって、向こうの大学に連絡してたよ」
「せっかちなんだよ、あの人」
留学のことを考え始めたのは、千雪からのお別れ宣言があってからだ。
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