「いや、結構おもろい文章やで? 複雑なトリックとかはないけど。ってか、ひょっとしてうちの大学の子やないか思うんやけど」
「まあ、そうだな、お前のアパート知ってて、持ってくるってのは。何? 誰か、心当たりがあるとか?」
「うーん、何か、イメージがひょっとして彼女やないか、いう子がおるんやけどな」
「誰だよ? ってか、送り返したんなら名前わかってんじゃないのかよ?」
「それが、会社気付で、キラキラペンネーム書いてあるだけやねん」
「フン、探し当ててみろってか? 生意気に」
「うん、どうやろな」
そんな気もしないでもない。
もっとパワーがある時なら、のってみてもいいかも知れないが、ちょっと今はそういう気力が千雪にはない。
「千雪、先、風呂入れよ」
京助は空になった丼をもってシンクに向かう。
「うん、ほな」
バスタブに湯を張ると、裸足のまま新しいスエットを抱えて千雪はバスルームのドアを閉めた。
食器をざっと洗うと食洗機に放り込み、京助はリビングに戻った。
千雪が置いて行った原稿の束を取り上げ、パラパラとめくる。
「家図愛?」
表紙にはタイトルとペンネームだろう名前があり、京助は漢字をそのまま、「いえずあい?」と読んだが、よく見るとルビがふってあり、「ホームズラブ」と書いてある。
「けっ、うちの大学の女子? ってかJKじゃねーのか?」
原稿をまたテーブルに戻すと、京助は腕組みをして、ソファに凭れかかった。
人の原稿なんか読んでねぇで、自分で書いたらどうなんだよ、あのやろ。
まだ、書けねぇのかよ。
それについては、京助だけでなくみんなが腫れ物に触るように、なるべく口にしないようにしている。
精神的なものなら追い詰めるようなことはマイナスに違いないからだ。
それでなくてもいろいろなことが重なったあげく、研二だ。
平気そうに振舞ってはいるが、実際は平常心であるわけはないだろう。
留学の話をどう切り出すかだな。
腕組みをしたまま渋い顔をして宙を睨み付けていると、「風呂、今、湯入れてるで」と千雪が後ろから声をかけた。
「おう」
京助ははっと我に返って立ち上がると、そのままバスルームに行った。
「なんや、あいつ」
どことなく変なのは疲れているからだろう、と千雪は軽く考えた。
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