京助が考えているよりもずっと、千雪の中で研二とのことは決着がついていた。
無論、感情の尾ひれはどうしようもなくあるし、それを何とかしようとしてもそう簡単にできるものではない。
それをグダグダ考えても仕方がないのだ。
冷蔵庫から缶ビールを出すと、千雪はリビングのソファに戻り、プルトップを引いてゴクゴクと飲む。
「やっぱ、風呂上りって美味いんやな」
ボソリと独り言ちて、千雪は原稿をまた手に取った。
「多分、あの子やないかと思うんやけどな」
文章の中の表現からも、目星をつけている女子の顔が脳裏に浮かぶ。
「いずれにせよ、やっぱ、編集部に送った方がええよな。あいにく、紹介してやるほどの力はないから申し訳ないけど」
今回、掲載を休止することになったり、依頼されていた文章掲載を断ったりするうち、確かに賞をもらってちょっと売れたくらいの作家など、いくらでも代わりはいるのだということは身に染みてわかった。
特に短編をずっと掲載していた推理小説誌の編集担当とは、最初から合わなかった。
三十代と思われるその編集者は、自分は千雪の小説をいいと思うところはないが、担当なのでよろしくと言い、携帯を持っていない云々を千雪が言ってもそのまま受け取り、とにかくアパートのドアの中に入ったことはない。
おそらく編集部の仕事として千雪の担当を受け持ったが、よほど千雪の出で立ちなどに嫌悪感を持っているのか、一度確認のために編集部のテーブルに戻ろうとした千雪は、せっせと千雪のいたところを除菌シートで拭いているのを垣間見た。
思わず吹き出しそうになったが、人間思い込みというのはここまでさせるのだということを改めて実感したものだ。
そのことを面白おかしく京助に話したことがあったが、「ぶん殴っていいか? そいつ」と真顔で言うので、千雪の方が宥めなくてはならなかった。
「っとに、猪突猛進!」
京助が口にすることにはほぼウソはない。
理不尽なことには真っ向から対峙する姿勢は千雪も同意だ。
だが、肩で風を切って、理不尽な障害物を跳ね返しながら突き進むやつだから、あれは苦労する。
以前、紫紀が京助のことをそんな風に言っていた。
弁解もあまりしないから、誤解されやすいとも。
千雪自身相手が誰であれすぐ口にしてしまうため、高校時代は敵を作ったが、千雪には研二をはじめ加勢してくれる仲間がいた。
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