「年明け………」
千雪は少し口籠ったが、「ええんやないか? 教授もお前に目かけてくれはっとるみたいやし、顔潰さんようにせんとあかんやろ」と続けた。
「そうか、それでだな、実は……」
言いかけて京助は千雪を見つめてぎょっとした。
「どうした? 千雪?」
京助は千雪の両肩を掴んでその顔を覗き込んだ。
「なんや?」
怪訝な声で千雪は京助を見た。
「何で泣いてるんだ?」
言われた千雪は自分で驚いた。
慌てて手の甲で頬の涙を拭うのだが、千雪の意識に反して勝手に涙が流れ落ちる。
「お前、俺と離れるのがいやで泣いてるんだろ?」
ややあって京助が言った。
「そんなわけないやろ、ここんとこ、何や涙腺がおかしなってもただけや!」
千雪はムキになって喚き散らして、京助の手をはねのけた。
「口にする言葉以外は素直なんだよ」
「何やそれ! わかった風なことを言うな! お前なんかおらんでも、せいせいするだけやし!」
立ち上がろうとした千雪を京助は引き戻す。
「ウソつけ」
京助は再び千雪の顔を覗き込んだ。
「メシ! 作るやつがおらんよになると不便やってだけや!」
強がっているのは明白なのだが、あくまでも千雪は睨み付けるように言った。
涙がこぼれるのを、京助はその頬に手をやって遮った。
「お前なんか、おらんかて………」
千雪は俯いて唇を噛む。
「ドアホ!」
思い切り悪態をつく千雪を、京助は抱きしめた。
仕方ないだろう。
気合が入った捻くれ度といい思い切った罵倒の数々といい素直さとはかけ離れているだろうこいつが、こんなにも愛しいんだから。
「だから、最後まで聞け。宮島教授にお前の留学先も見繕ってもらったんだよ」
「は?」
それを聞くと途端に千雪の涙がとまる。
「何やそれ?! 何でそんな、勝手に!」
千雪は京助を睨み付けた。
「だから……」
京助は一つ溜息をつく。
「お前、ここの部屋が空いたから引っ越せって言った時も勝手なことすんなって怒っただろ。それで言い出しにくかったんだよ」
「当たり前や! 何で俺が留学や!」
千雪は今度は食って掛かる。
「研二に頭下げてまで取り返したお前とこれ以上離れてなんかいられるかよ!」
京助も負けずに言い返した。
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