「それはよかった。じゃあ、善は急げで、留学の話だが、懇意にしている犯罪社会学の権威でH大教授のルイス・コンラッド教授の研究室では、いろいろと面白いプロジェクトを立ち上げていてね、こういういい方は何だが、かなり刺激的な案件も取り上げているから、君もおそらく興味を持ってくれるんじゃないかと思うんだよ」
千雪のプロフィールは送っておいたから、向こうに行ったら直接コンラッド教授を訪ねればいい、と宮島教授は言った。
どうやら千雪の返事を待つまでもなくお膳立ては済んでいるらしい。
向こうに発つ日時を教えてくれれば、知らせておくから、と機嫌よく送り出された。
研究室に寄ると、普段はあまり千雪に必要以上に近寄らないようにしている先輩らまでが、体調はいいのか、などと聞いてきた。
「はあ、お蔭さんで割とようなりました」
千雪はデスクの上を片付けたり、置いていた私物を持ってきたバッグに詰め込んだ。
「あああ、先輩いい!」
ちょうどそこへ戻ってきた佐久間が大仰に声を上げた。
「もう平気なんですか? 復帰する……んとちゃうんですか?」
どう見てもデスクを片付けているらしいのを見て取ると、佐久間の声のトーンが落ちた。
デスクはすぐに片付いて、千雪は立ち上がるとリュックを肩にかけ、バッグを持ち上げた。
「先輩、まさか、休学やのうてやめはるんちゃいますやろ?」
研究室を出た千雪を、佐久間が追いかけてきた。
「さあ、戻ってきても俺のデスクがあるかどうかわかれへんな」
「戻って来てもて、どっか行かはるん?」
不安げに声高に佐久間が聞いた。
「そのうち宮島教授から話あると思うけど、急遽留学することになったんや」
それを聞いた佐久間はしばし絶句した。
「え、ほな、京助先輩と一緒に!?」
気を取り直した佐久間は千雪の顔の間近で喚く。
「アホ! 声がでかいわ」
歩きながら千雪は佐久間を睨み付けた。
「何や、そうなんでっか。俺、二人がどないなるんやろ思て心配しとったんでっせ?」
今度はひそひそ声で佐久間が言った。
「いつ、行かはるんです?」
「さあ、まだ決めてないし。いずれにせよ年明けてからやな」
「うわあ、ほな、俺、夏休み、遊びに行きますわ!」
「アホ、来んでええ」
「ええ? そのうち可愛い後輩の顔見とうなりますやろ」
即断されても何のそのな佐久間はぐいぐいと顔を寄せてくる。
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