「なるか」
再度千雪は否定する。
「そうと決まれば、英語、マスターせんと。理沙子も休み取れたらええなあ」
佐久間の頭はすっかり夏休みに飛んでいる。
「あ、せや、これ、あの子に渡しといて?」
急に足を止めて、千雪はリュックから厚い封筒を取り出すと、佐久間に渡した。
「は? 何ですの? あの子て」
「ほら、お前の空手部のマネージャー」
「え? ミスT大にでっか?」
「といつも一緒におるメガネの子や」
「ああ、木村さん? 何ですの? これ」
「渡せばええんや。中は見るなよ? 木村さんが怒るで」
「はあ、わかりました」
今一つ意味が分からないという顔で封筒を受けとった佐久間に、「ほな、頼むわ」と言うと千雪は大学を出た。
「何しとんのん?」
アパートに帰ると、京助が冷蔵庫を開け放して中を拭いている。
「お前、向こうに行くまで俺の部屋で暮らせばいいだろ。冷蔵庫、しばらく使わねェようにして」
すると珍しく素直に、「わかった」と千雪が頷いたので、京助は千雪を振り返った。
「何や?」
「いや。小夜子には早めに知らせた方がいんじゃね? ボストンの方が東京より近いから喜ぶだろ」
「そうやな」
東京とパリの距離に比べればボストンとパリ間は約半分くらいの時間で行ける。
千雪ちゃんと当分会えなくなるわね、と残念がっていた小夜子だ、ビデオ電話よりも軽く大西洋を越えそうだ。
結局青山プロダクションには京助が千雪を送って行ったので、結果的に工藤と顔を合わせることになった。
「あら、お久しぶりですわね、千雪さん、京助さん」
鈴木さんが二人を見ていそいそとお茶を入れに席を立った。
「一人旅から帰ったのか?」
工藤はニヤリと笑って千雪を見た。
「ちょっと東北行脚してただけですわ」
「フン、で? 書けるようになったのか?」
京助ですら避けていたことを、工藤が軽く聞くので、コノヤロウという顔で睨みつける。
「うーん、まあ、もうちょいってとこ?」
案外千雪も軽く答えたので、京助も、そうなのか、とホッとした。
「実はお前の小説のファンっていう俳優陣との対談話がある」
「ええ? お断りします」
またしてもウザい話に、千雪は即答する。
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