「まあ、聞け。弁護士役を映画と同じ志村と多喜川さんで、ドラマは来年秋の予定だが」
「ドラマ? って、まだ映画も封切ってないのに?」
怪訝な顔で千雪は工藤を見た。
原作者の千雪とは別のところで話が進んでいる。
「おい、いい加減にしとけよ、千雪を金儲けのエサに使いやがって」
思わず京助が口を挟む。
「小林先生の作品がそれだけ切望されてるってことだ。千雪にとっても悪い話じゃない」
工藤に軽くあしらわれて京助は渋い顔をする。
「美味しいプリンをいただいたんですのよ。どうぞ」
そこへ鈴木さんがコーヒーとプリンをトレーに乗せてやってきた。
お陰で場が一瞬にして和む。
「おおきに」
千雪は早速プリンに取り掛かる。
「ほんまや、これ、美味いわ」
「でしょう? お土産に頂いたんですけど、最近評判のパティシェリのですってよ」
鈴木さんは工藤にもコーヒーをすすめてから自分のデスクに戻っていく。
「だが、年が明けたら留学するからな」
とりあえずコーヒーを飲むと、京助が言った。
「ほう? そりゃいい。慌てて年末にセッティングしなくても、ボストンで対談ってことでいいだろ」
むしろ喜ばし気に工藤は提案した。
「しがらみを離れて向こうに行ったら、いいもんが書けるんじゃねえか?」
この工藤の科白には京助も異を唱えるつもりはない。
「さあ、どうですやろ」
千雪は小首を傾げる。
「何か書けたら、前に話していた編集、紹介するぞ。K社のやつで、つまらねェもんには目もくれないって筋金入りだ」
「そんな編集さんのお眼鏡にかなうかどうかわかれへんし」
千雪はさほど乗り気ではないようだが、「いんじゃね? 今までの編集とは切れたんだろ?」と京助の方が前のめりな発言をする。
「千雪の小説は好きじゃないが仕事だからやってるだけだなんていう編集は切れてよかったんだ」
「あいつか。映画の話でやり取りしただけだが、事務的なやつだったが」
工藤が言った。
「まあ、ほぼああしろこうしろもなく、原稿渡してそのまんまやったな」
「そいつ、千雪のコスプレにまんまとはまって、ほぼ電話のやり取りだけで、千雪を毛嫌いしてたみたいだぜ」
京助は編集部での打ち合わせで、千雪が座っていたテーブルを除菌シートで拭いていたという、千雪としてはオモシロネタで話したことを、憤慨しながら工藤に話して聞かせた。
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