メリーゴーランド38

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 だが、明らかに女の子が悪いと思うような時でも、男の子が我慢しなくてはならないというのは間違いだ、と思っていた。
 京助には、泣き脅しは通用しない、というのも近くにいて知っている。
 そこのところの考え方は同じだ。
 だがしかし。
「京助、それってあまりにも極道なお願いちゃう?」
 すると理香が我が意を得たりと「そうでしょ? 千雪さんもそう思うでしょ? こいつ、こういう男なんだよ? か弱い元カノにさ」と声を上げる。
「うるさいよ、何がか弱いだ、お前がその程度で傷つけられるような女じゃないことは百も二百も承知だ」
 偉そうに腕組みをした京助は理香を見下ろした。
「やってあげてもいいわよ。それで? 報酬は? 身体で払ってくれるとか?」
 理香は微笑を湛えてチラリと千雪に怪しい気な一瞥を送ると、京助を見上げながら、タイに手をやった。
 千雪は思わず目を見開いた。
 いや、別にこれはヤキモチとかじゃ、断じてない!
 慌てて千雪は自分で自分に言い訳しながら、視線を逸らす。
 京助は理香の手をぺしっと払いのける。
「千雪をからかうのもいい加減にしろ。ことが落ち着いたらマティーニでも奢ってやる」
 これには理香も呆れたようだ。
「ちょっと、いくら何でも、せめてプラダのバッグくらいくれたって罰は当たらないでしょ」
「んなもん、お前、いやって程持ってるだろうが」
「あら、いくつだってほしいわよ。こないだ新作が出たのよ」
 話を聞いていると、二人はかなり親し気だ。
 千雪は理香の本心がどこにあるのか、今一つわからなかった。
 好きな相手が別の誰かと付き合っているのなら、普通こんな風に軽口を叩くようなマネはできないよな?
 それ以前に、どう見たってこの二人の方がお似合いじゃないのか?
「わかった。一つだけだからな」
「千雪さんが証人だからね」
 ウインクして見せると理香はパーティ会場へと踵を返す。
「そういえば、克也は知ってるの?」
 もう一度振り返ると、理香が聞いた。
「とっくに知ってる」
「なーんだ、あたしだけ除け者にしないでよ」
 そう言い残すと理香は会場へのドアに向かった。

 


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