ちょうど、その時ドアが開いて、理香と入れ違えに一見外国人モデルと思しき美人が中から出てきた。
「ああ! 京助、こんなとこでサボってるし!」
今度は彼女か。
千雪は軽くため息をついた。
「俺が何しようとお前に関係ねぇだろ」
「京助、ほんまに俺疲れたから、もう帰るわ。小夜ねえらにも言っといて」
これ以上付き合いきれないとばかり、千雪が二人に背を向けた途端、「あの、小林先生ですよね?」と声がかかった。
「は?」
振り返ると、ひどく期待に満ちた目で美人モデルは千雪を見つめている。
「前から一度お話したかったんです! あたし、中川アスカと言います。先日の原夏緒の展覧会も拝見させていただきました! ってゆうか、絵はすごく好きで、すごくよかったんですけど、あたし、先生の超ファンなんです!」
この展開は予想していなかったものの、ほんのたまにそういう女性がいないこともない。
実際は小説のファンは多いのだが、この見るからに変人ぽい作者本人にまで会おうと思うような輩は、佐久間くらいなものだ。
「はあ、ありがとうございます。ほならな」
とりあえず社交辞令で礼を言うと千雪は今度こそその場を去ろうとした、その腕を、掴まれた。
「あの、失礼しました!」
アスカははたと千雪の腕を掴んでいた手を放してぺこりと頭を下げた。
「あの、もうずっと、賞をお取りになった『野ざらしを』から全部読ませていただいてます。『花のふる日は』も大好きです」
「あ、はい。ありがとうございます」
「京助に前っから会わせてって言ってたのに、ちっとも先生に会わせてくれなくて! お会いできて本当に感激です!」
本来の千雪を知らない女性にこんな間近でにこやかに話しかけられたのは初めてだろう。
大抵、臭そうとかキモいとかで寄ってくる気配もない。
まあ、最近は千雪がコスプレを面白がって色々試してみたりしているのだが。
「あの、よかったらサイン、いただけますか? えと……」
アスカは持っていた小さなパーティバッグから、慌ててハンカチを取り出した。
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