「なんや、それ」
千雪が苦笑する。
「別れんで、ずっと一緒やったら、やらんでええんちゃう?」
「ああ、でも、この先、きっとこのクラスのパーティとか何とか、山ほどあるわね、仕事上の付き合いとかで。考えるとウンザリ」
「仕事やったらまだラクなんちゃう? とにかく一山超えたんやから、まあ次はいつになるかわかれへん披露宴か。俺、どこぞで籠って小説書くから、よろしゅうに」
とりあえず、千雪は宣言しておく。
「そうはいかないわよ、きっと」
見ると京助は京助で、紫紀や涼、それに父親に掴まって何かしら声高に話をしていた。
「もうそろそろ、お客様もいなくなったんじゃない?」
「せやな。ほな、お先に」
千雪はたったかエレベーターへと向かう。
するとそれに気づいた京助が、家族との会話を打ち切って、千雪のあとを追った。
「てめえ、一人で逃げ出そうなんざ、いい度胸じゃねぇか」
「ご家族と話あるんちゃうのんか?」
「んなもん、すんだ」
これだ。
本当に千雪を一人にしてくれない。
「それにしても、理香さんて、京助の彼女やったんやろ? 男と付き合うとるとか、偏見ないんやな」
エレベーターはたまたま二人だけになった。
千雪が気になっていたことを聞くと、京助は「周りにいろいろいるしな。それに、昔俺に言いよってた男もいたからな」などという。
「へえ」
「あくまでも昔の話だ。それに、言い寄られてただけで、そいつとは清いお付き合いだったからな」
「別にそんなん………」
「お前が気にするようなことじゃない」
確かに、気にならないわけではないだろうことが、千雪の中で混乱を招いている。
京助が誰と付き合おうと、しかも昔誰と付き合っていようと、そんなことは自分とは関係がない。
はずなのだが。
時折感じる心のさざ波の正体を、千雪は自分でも持て余していた。
タクシーに乗り込み、京助は千雪のアパートの場所を告げると、結局一緒に降りて千雪の部屋に向かった。
部屋に入るなりぐったりとソファに寝転んでしまう千雪から、京助は上着やズボンを脱がせると、ハンガーにかける。
「風呂、入るか?」
「あとでええ」
もうこれ以上動きたくない千雪はクッションに頭を乗せたままぐったりと目を閉じて丸くなる。
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