野ざらしを心に風のしむ身かな
この句は、野ざらし紀行の旅に出る芭蕉が詠んだ決意の句で、旅の途中で野垂れ死にするかもしれない覚悟をした身に風がしみるといった思いがあるというが、おこがましくも千雪も一人でどこへともわからない道を歩まなくてはならない自分のことを重ねて、句の冒頭を小説のタイトルにした。
父親の元ではなくあえて東京に出たのは研二と一緒だからという甘えもあったのだが、その研二にも土壇場で去られ、女の子に追いかけまわされても、いつも傍にいてくれたはずの研二がいない、どうするか、と考えた苦肉の策が例の大学デビューのコスプレなのだ。
芭蕉の旅に対する決意とは比べらものにならないだろうが、当時の千雪としては最重要案件だった。
アスカのお陰でそんなことをぼんやり思い出していた千雪の背後から京助が抱きしめて首筋にキスを這わせる。
「や……ほんまに、疲れとるし………」
「わかったよ、今夜は何にもしねぇよ」
時々、京助はひどく優しい。
そんな京助の腕の中で眠る心地よさに甘えてしまうから、ずるずるとこんな関係になるんだと思いつつも、疲れ切っていた千雪は簡単に眠りに落ちた。
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