メリーゴーランド46

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 軽井沢の平造老人の話だと、工藤は実際の花を見るのを今も避けている。
 考えようによっては、亡くなったちゆきは究極の愛を手に入れたのかもしれない。
 彼女の中では、工藤の愛はもう永遠にそこに留まっているからだ。
 工藤がやさぐれようが新しい恋人を見つけようが、残された工藤の心がどう変わろうと彼女はもう知ることもないのだ。
 いや、多分、工藤はちゆきが亡くなって以来、桜の花びらの中に己も囚われているのかも知れない。
 この映画で桜のシーンを映像化することで、工藤は桜の呪縛から逃れることができるのだろうか。
 いや、逃れたくはないのかも知れない。
 敢えてそこに留まりたいだけなのかも。
 まあ、いずれにせよ、俺には昭和のオヤジが何考えてるかなんてわかれへんけどな。
 千雪はインタビューの間、そんなことを考えながら、珍しく撮影に立ち会っている工藤を見た。
 インタビューは問題なく終わったが、一時間後くらいに今度は文英社の月刊誌トランタンの編集者である山井理沙子のインタビューがまだ残っている。
「このジャケット似合ってる。ジャージだけじゃないのね、千雪さん」
 オフィスで休憩中、メイクをするために時間を作ってくれた万里子がくすくす笑う。
「うるさいわ。どうせ京助が選んだやつや」
「京助さんといえば、ほら、展覧会のパーティの時、セレブのお嬢様紹介されてたじゃない? いよいよタラシ返上? お兄様に対抗して寿合戦とか?」
 万里子は京助と千雪のことを知らないらしい。
 工藤も人のプライバシーをぺらぺら人に喋るようなことはしないようだ。
「にしても、雑誌のインタビュー、トランタンて、結構落ち着いた雑誌ちゃいます? 映画の宣伝とかになるんですか?」
 さり気に話題を変えて千雪は工藤に尋ねた。
「トランタンは文芸的な要素もあるからな、お前の小説についてちゃんと書いてくれるんじゃないのか?」
 へえ、映画の宣伝より、俺の小説のことを考えてくれよったいうわけ?
「お疲れ様。さ、皆さん、お茶にしましょう」
 お茶とクッキーを運んできた鈴木さんがにこやかに笑った。

 


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