「メニュー見たら途端に腹減ったわ」
素に戻って千雪は健啖ぶりを発揮するし、女優であるということも忘れて万里子はパクパク食べる。
「ったく、よく食べるな、お前ら」
工藤はステーキだけ食べると、あとはワインを飲みながら呆れた目を向けた。
「そういや、お前のストーカーは今日は顔を見せなかったな?」
万里子を先に送った帰りのタクシーの中で、思い出したように工藤が聞いた。
「解剖で呼ばれたみたいで」
「何だ、それでさっき浮かない顔してたのか?」
「………ええ、まあ」
研二のことが事実だったとしても、千雪には何もできないのだ。
研二…………
千雪はあの町で一人苦しんでいるだろう研二をどうしてやることもできない。
幼い頃からずっと自分を守ってくれた優しい研二を思うと、千雪はひどく哀しくなった。
朝から蝉の鳴き声が半端なく目が覚めた千雪が、ニュースを見たくてつけたテレビでは、今年一番の猛暑日だとキャスターもお天気のお兄さんも連呼していた。
昨日も同じことを言っていたはずで、毎日暑さが更新されているらしく、暑い暑いと言われると余計暑くなる気がして、すぐにテレビを消した千雪はのっそりと起き上ってまずシャワーを浴びに行った。
戻ってきた千雪は開け放していた窓をしっかと閉めると、エアコンの温度を一気に下げた。
こんな日は極力外には出かけたくないものだが、こういう時に限って朝から授業を持たされていたりする。
夏に面倒だと思うのが、何年か続けてきた、ダサダサのオジサンコスプレだ。
本当なら、パンツにTシャツで出かけたいものだが、この夏のダサい衣料品を探すのがなかなか一苦労なのだ。
近くのスーパーの衣料品売り場などを見て回って購入しているのだが、最近ではオジサンファッションもなかなかカッコよい着こなしができるシロモノが多くなってきている。
それ故どうしても春秋冬よりはスマートになりがちなのだ。
そこを何とか、必要以上に頭を掻きまわしてみたり、メガネの淵を太い物にしてみたり、あり得ない色の組み合わせとかでクリアしている。
頭は、髪が少しくせっ毛でサラッとならないのがとりあえず功を奏してきた。
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