上京して以来、美容院も床屋も行くのが嫌で、最初は自分で切っていたのだが、そのうち、京助が切ってくれるようになったことは助かっている。
まあ、このくせっ毛は、逆に今まで整えようとしてもうまくいかなかったところがみそだが。
明らかに普通人が身だしなみを整えるところを、逆にどこかしらで乱してみて、鏡を覗き込むと、よし、と千雪はスニーカーならぬ運動靴を履いてアパートを出た。
快晴の空を見上げ、千雪は何かしらの予感のようなものを感じて、足を速めた。
予感は当たってしまった。
昼休み、コーヒーを持ってテラスに座った途端、携帯が鳴った。
三田村だった。
「ええ知らせと悪い知らせ、どっち先がええ?」
千雪は一瞬口を噤む。
こういうお茶らけたことを言ってくる時の三田村は、往々にしてケタクソの悪い話を持ってくるのだ。
「どっちでもええから、はよ話せや」
「うーん、ほなまあ、俺と桐島のことやけど。ほんま、あかんかも」
研二のことかと構えるとこれだ。
「どないなってんね」
「しばらく距離置こう言われた」
「………それで、お前は何て」
「しゃあないなて」
「そうか……」
しばしの沈黙の後、次は研二のことや、と三田村が言った
千雪は思わず息をのむ。
「あいつにお前、東京のビルのオーナーとかの名刺渡したやろ?」
「え?」
全く思ってもみなかった方向へ話が飛んだ。
「最初かかってきた時は、そういう余裕はないとかって研二断ったらしんや」
「そらそやろ……って、最初?」
「せや。こないだその話が急展開したて、研二から電話もろて。あいつ、この秋から東京の支店のオーナーや」
これには千雪も驚いた。
研二が東京進出など受けるはずがないと思っていた。
「せえけど、おっちゃんら、そんなの賛成したんか?」
「まあな、研二がああいうことになってしもて、それやったらいっそのことて、おっちゃんから勧められたらしいわ」
「ああいうこと?」
ああ、と千雪はややあって理解した。
「離婚したからな。真由子さん、自分が悪い言うて、やさかのおっちゃんらに頭下げたみたいや」
本当に離婚したんか。
「ほんでや。秋いうてももうすぐにでも準備せなあかんし、週末、研二上京するいうてきたから、三人で逢おや」
急な話だが、確かに秋に開店するのであれば、急も何もないかも知れない。
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