メリーゴーランド51

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「部屋はもう、あのオーナーの芝さんが持っとる松濤のマンション、破格な家賃で貸してくれるらしいで」
「ほなもう、身一つでも上京でけるいうわけか」
「せや。京都のお上りさんがいきなり松濤やで。こら、俺らで見定めに行ったらんとな」
 確かにそんな話をしていると、浮ついた気分になってしまう。
 研二は離婚したばかりで傷心なはずなのに、と千雪は自嘲する。
 土曜に三人で逢う約束を取り付けて、三田村は携帯を切った。
「ご家族が上京してきはるんですか?」
 そんな科白とともに、ウザい後輩佐久間が、テーブルの向かいに座る。
「お前に関係ないやろ。ダチが上京してくるんや」
「ああ、ほな、正月に集まってたご友人でっか?」
「せや」
「菊千代はんは上京しはらへんの?」
「するか」
「先輩、京都やとほんま、こっちにいるんと打って変わって、ご友人さん仰山いてはるし、こっちでももっと愛想ようしはったら、ご友人とか彼女とかでけるんちゃいます?」
 作りたくないからのコスプレなんだよ!
 千雪は心の中で言い返して、残ったコーヒーを飲む。
 普段は夏でも腹をこわしやすいのでコーヒーも熱いのを飲むのだが、さすがに今日は木陰なのに座っているだけで汗が出てくる。
「そうや、理沙子の取材受けはったんですよね? どないでした?」
「ああ、順当に終わったで」
「はあ」
 もっとほかに言いようがないのかという顔で佐久間は千雪を見つめた。
「とにかく取材とかインタビューとかもう金輪際ごめんや」
「いやあ、せえけど映画が大ヒットとかした日にはそうはいかんのちゃいます?」
「工藤さんを散々ヤクザ呼ばわりしてたやつが、何言うてんのや」
「いや、あれは情報が錯綜してたし。せや、こないだの展覧会、よかったですわ。理沙子と一緒に行ったんですけどね、もうデートにはもってこいでんな。ただ歩いとるだけでも………」
 こういうやからは美術館なんかに行くんやないわ!
 呆れて立ち上がった千雪だが、「え、もう行かはるん?」と佐久間も慌てて千雪のあとを追ってくる。
「せえけど、ほんまにええ絵ばっかでしたわ。描かれとる子どもの中に先輩もいてるんですやろ?」
「母親の絵やからな」
「何人か描いてはりましたけど、先輩どの子ですのん?」
 どの子。
「大きい子と可愛い女の子二人描いてはりましたけど、大きい子は先輩とちゃいますよね?」
 女の子二人なんか、描いてへんわ、アホ。
 千雪は心の中で佐久間を詰る。
 三人は研二と江美ちゃんと千雪だ。

  

 


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