メリーゴーランド54

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 一瞬、京助は言葉を失った。
「…そりゃまた、急な展開だな。一家で引っ越してくるとか?」
 今度は千雪が言葉に詰まる。
「研二、離婚したんや。いろいろあったらしゅうて」
「……離婚?」
 京助は驚きを隠せなかった。
 研二が離婚したことも寝耳に水だが、それですぐ上京するその意図を勘ぐらざるを得なかった。
 昨年の春、京都で逢った時の研二とのやり取りは忘れるわけもない。
 研二の千雪に対する思いは明らかだった。 
 研二に挑戦的なセリフをぶつけたのは京助の方だ。
 それに対して研二は怯むことなく、いつでも何もかも捨てる覚悟はあると言い返したのだ。
 あの時の研二の目はまっすぐ過ぎて、京助にはとても太刀打ちできないように思われ、捨てたのはお前の方だろうなどと、捨て台詞を口にした自分の卑小さに情けなくなった。
 以来、研二とは同級生らと一緒に何度か逢ったが、これまでのところ当たらず障らずといったふうに接してきた。
 少なくとも表面上は。
「にしても離婚していきなりこっちに支店ってのは、急展開だな」
 何で今さら……。
 京助は表情を硬くした。
「ああ、それな、ほんまに急展開なんや。三月の展覧会にみんなで来てくれたやろ、あの時、小夜ねえに菓子を土産にくれよったから、俺が日本橋に持ってったんや。小夜ねえ、『やさか』の菓子好きやから」
 千雪はたまたま菓子を持って行った時に、店に、得意先である芝がいたのだと話した。
「小夜ねえが芝さんにも菓子を出したら、えらい菓子が気に入らはって研二をしょうかいしてくれへんかて言われたんや。そん時、秋に有楽町にオープン予定の商業ビルに和菓子処を出店予定やってんけど、決まってた菓子職人と芝さんのコンセプトが合わずに出店が見送りになってしもて、入ってくれる店を探しとったらしい」
「そりゃまた、偶然にもお誂え向きな話が舞い込んだもんだな」
「いや、俺はまさか研二が受けるとは思わなんだんやけどな。やさかのおっちゃんなんかはなっからダメ出しや思たし」
 おそらく、研二が離婚なんてなければ、研二の父が首を盾に振るわけがなかった。
「土曜日に逢うたら、また詳しい話聞くけど、三田村の話やと、研二の離婚が決まったよって、おっちゃん、研二のために心機一転させよ思たんやないかて」

 


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