「じゃあ、鰻か鮨か」
京助が二択を提示した。
「やっぱ鮨かな」
「おし、決まり」
京助は鮨の出前を頼むと、無精ひげを剃ってからシャワーを浴びに行った。
出前が届くと、ようやくキリをつけた千雪はまず鮨にありついた。
「朝、パン齧っただけやから、腹減るわけや」
「ったく、こいつは」
双方とも忙しいと、互いに食事は後回しになるのだが、それでも京助は冷凍ピザやサンドイッチなどを買いおいている。
基本京助自身は、身体を動かすためにはとりあえず何でもまずかろうが美味かろうが食べるし食べられるのだが、千雪は京助の作る手料理のお陰もあってかコンビニ弁当がまずいと感じてなかなか食べられない。
美味いものを前にすればよく食べるのだが、もともと千雪は食事に対して執着がない。
だから食べないで済ませてしまうこともあるのだ。
また千雪が食事をしていなかったことを聞くと、京助の中の世話焼きの虫がそれを許せない。
今度まとめて作り置きして、冷凍してもってこよう。
今さらだが、まるでこれじゃ、母親じゃないか、俺は。
克也のやつもことあるごとに言いやがって、フン、母親だろうが父親だろうが、これが俺だ。
京助は鮨をぱくついている千雪を見ながら、ひとり頷いた。
その夜、風呂上がりの千雪を引き寄せた京助はそのままベッドへとなだれ込んだ。
だが腕の中に千雪をしっかり抱いているにも拘わらず、研二のことが京助の頭を過ぎり、得体が知れない不安に駆られる。
「い…たい、京…!」
つい指に力が入り、千雪が悲鳴を上げた。
「何かおかしいで……どないした……」
「俺をあの解剖室に向かわせやがる殺人鬼どもがクソなんだよ」
「今さら……殺人鬼なんかどいつもこいつもクソやんか!」
「お前を抱いてねぇと、クソどもが寄ってくるんだ」
「アホか!」
殺人鬼はクソどもだが、あの日向野って女もマジ、クソだぜ。
千雪には話していないが、あれから理香から連絡があって、あの女、んっとに食えないわ! と怒髪天という感じだった。
理香はそれでも初めは華道家元の娘という立ち位置を活かして上から目線で近づいたらしい。
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