メリーゴーランド58

back  next  top  Novels


「日向野奈々子様、ご存じないようですから、こっそり教えて差し上げますわ。あの綾小路京助、いろんな女がいるらしくてよ。奈々子様のような生粋のお嬢様にはお勧めできかねますわ」
 すると奈々子は怯むことなく理香に言い返した。
「別にどなたのお勧めもいりませんわ。私がいいと思った方ですもの」
「でも本命もいるみたいなのに、誰にも教えないらしいわ」
「そんなの噂でしょう」
 奈々子は笑いとばした。
 早くもイラついた理香は奈々子をあからさまに見下した。
「まどろっこしいことは抜きにしましょうか。いい加減にしなさいよ。京助のつきあってるのは私。わかったら付きまとうのはもうやめなさい」
 途端奈々子は高らかに笑った。
「やだわ、五所乃尾様、世迷いごとはおよしになって」
「何ですって?」
「少し夜のお遊びが過ぎるんじゃありませんこと? 目尻の皴が一段と深く見えますわよ。綾小路様と並んだら、あたしと五所乃尾様のどちらが相応しいかなんて誰の目にも明らかですわ」
「思いあがるのもそのくらいにしたら? 後で泣くことになるわよ!」
 捨て台詞を吐いて逃げ戻った理香は怒り心頭で京助に連絡してきたというわけだ。
 京助が一言一句聞かされたのは、理香がわざわざ携帯で録音していたデータを京助に送り付けたからだ。
「くだらねぇやりとり」
 一言で切り捨てた京助に、理香は怒鳴りつける。
「京助がやれって言ったからやってあげたんじゃない!」
「プラダはムリだな。せいぜいプラダもどきってとこ?」
「あんたねぇ! あたしがあんたの女だっていって宣戦布告してやれっつったのはそっちでしょ!」
「本気度が低い。科白棒読み。まあ、しゃあねぇな。マティニくらいなら奢ってやる」
 怒って理香が携帯を切ったので、その後、マティニを奢るシチュエーションにもなっていない。
 実際は解剖室に籠っていた京助はマティニどころの騒ぎではなく、世の中からも隔離されていた。
「クソ! お前の原稿が終わったら飲み行くぞ」
「はあ?」
 京助は怪訝な顔を向ける千雪に何も言わせないようキスでごまかした。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます