翌日午後一時頃には原稿が上がりネットで送った千雪はしばらく爆睡していた。
その間に、スーパーで食材を買い込んできた京助は、料理に取り掛かった。
料理は千雪のためにということもあるが、京助にとっては手っ取り早いストレス解消法でもある。
面倒なことも考えず、美味いものを適当に作る。
子どものころから料理や菓子作りに親しんできた京助は、中にはプロ並みのレシピも持っている。
ただ、それを仕事にしようと思わなかったのは、美味しいものを作ることを楽しむことができなくなると思ったからだ。
五時頃には、少し早い夕飯のために千雪を起こした。
「うわ、何か、すごいな。誕生日でもないのに」
ダイニングテーブルには鰻や卵が散りばめられた彩り豊かなちらし寿司、鮭と玉ねぎのカルパッチョなどが並び、夏野菜のトマト焼きにはチーズが蕩けている。
早速取り分けてもらって口に入れたキュウリの梅肉和えはさっぱりと口当たりもいい。
「これ美味いわ。やっぱ夏はさっぱりしたもんがええな」
カルパッチョやキュウリを味わい深げに食べ、ちらし寿司はもくもくと平らげる千雪のようすを京助は満足気に見やる。
さらにスイーツは生クリームと蜂蜜たっぷりのフローズンヨーグルトだ。
軽く缶ビール一本ずつで食事を終えると、「さあて、飲みいくぞ」と京助が言う。
「これからか? たるい………」
「お前、こんなせまっ苦しい部屋に何日も籠ってて、不健康極まりない」
軽く拒否った千雪に京助はいかにもな説教をたれる。
「何日もて、たかだか三日やし」
大学が試験期間に入るのを見計らって、千雪は執筆のための休みを教授に願い出た。
その前には教授の論文の手伝いにかかっていたので、教授は快諾してくれたのだが。
「汗臭いし、俺はパスる」
「シャワー浴びればいいだろ。ほら、さっさとしろ」
ソファに腰を降ろしてグダグダ渋る千雪を立ち上がらせて、京助は風呂へ追いやった。
「え、ここ行くんか?」
タクシーが泊まったのは西麻布にある十階建てのビルの前だ。
千雪は胡乱な目つきで京助を見た。
京助のマンションに近く、その最上階にあるバーには以前一度京助に連れられて行ったことはあるが、あまり行きたいと思えるようなところではなかった。
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