会員制で既に会員となっている者とでなければ入ることはできない、セレブや業界関係者御用達の高級バーだ。
金を払えば会員になれるというわけでもなく、会員の紹介が必要になる。
「煩わしいマスコミとかはこねぇし、静かだからいいだろ」
確かにバー側の方針で、客層が客層なだけにマスコミ関係者お断りとなっている。
けど、お前のダチとかもいるんやないか、とか千雪は心の中では思ったものの口にはしなかった。
店内は若者が騒ぐようなこともなく、ダークな色彩で統一されたインテリアは瀟洒で落ち着いた雰囲気があった。
客層もこのクソ暑い夏だというのに、スーツの一団や女性も如何にもキャリアといったビジネスマンたち、或いはどこかで見たことがあるような顔が何人かいたが、俳優やタレントの名前を覚えていない千雪にはわからなかった。
こじんまりとしたブースに通され、京助はスコッチ、千雪にウオッカソーダをオーダーすると、少しあたりに目を走らせた。
京助は高校を卒業してすぐの頃からこの店に入り浸っていた。
京助を連れてきたのは紫紀で、京助は律義に二十歳になるまではこの店では酒に手をださなかったが、理香や速水らは常連で、仲間も何人もいる。
高級だからとかでこの店に来るわけではないが、繁華街を歩けばどこかしらでマスコミ関係者に追われるような時期もあった京助にとっては、静かで自分をよく知っている仲間が集う場所だからというのがあった。
ただ、一度それで失敗した苦い経験も忘れてはいない。
無論この店のことだけではないが、付き合い始めた小山美沙を自分のテリトリーを連れて歩き、映画を見た後でこの店にやってきた。
二人だけのロマンチックな夜を過ごしたかったにもかかわらず、たまたま居合わせた仲間たち、理香や速水や何人かの悪友に見つかって彼女を紹介させられたのだ。
いずれは自分のことをよくわかっている仲間たちのことも彼女に紹介するつもりでいた京助だが、高校で付き合っていた彼女がいきなり日本を離れて去って以来、誰とも付き合おうとしなかった京助が、初めてこの店に彼女を連れてきたというので、悪友たちは興味津々だった。
何だかだと美沙に絡む、特に速水や理香はもともと口が悪いのだが、実際それ以前に自分とはかけ離れた世界に住む京助の周囲に少し引き気味になっていた美沙は、そのうち黙ってしまった。
美沙の心が離れて行った、思えばそのあたりがターニングポイントだったかも知れないと京助は思うのだが、今さらな話だ。
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