別れてから何年か後にたまたま銀座で出くわした時、友人と二人でストリートライブをやっているのだという美沙は何か吹っ切れたような表情を見せ、千雪とともに聴いた彼女のピアノには美しい音が思い切り溢れていた。
美沙は音大を出たが、もともとジャズに心酔していて、ニューヨークに一年ほど行っていたという。
ピアノバーなどで弾いたりしながら、所属しているバンドで定期的にライブをやっていると語る彼女は生き生きとしていた。
実際のところ美沙と別れてからの京助は一時期ひどく荒れて、それこそマスコミが囃し立てる通り手あたり次第相手をとっかえひっかえのような時があった。
繁華街で女と遊んでいたその頃の印象が最近までのイケメンの遊び人的なマスコミ評に繋がっているのは確かだ。
千雪とセットで名前が広まった頃はそれに輪をかけて来日中の有名モデルとホテルの件もあり尾ひれがついた形でモテメン京助が出来上がった。
それが一年程前のことで、母の病気で滞在中のニューヨークで知り合ったモデルのカレン・ロイドは、彼女が運転する車の事故で隣に乗っていた姉が亡くなって以来ウツと薬でひどい状態で仕事どころではなく、マネージャーが彼女を宥めるために京助を呼んだのだが、泣きわめく彼女を身体で宥めたのは自分にとっては失敗だったと、後になって後悔することになった。
それを隠すことができなかった京助は千雪に愛想をつかされ、しかも往来で別れる切れるで揉めていたところをあの工藤高広に見られて付け込まれた。
あの時、二度と同じ轍は踏まないと肝に銘じた。
思い出しただけでも未だに腸が煮えくり返る。
その男の顔を視線の先に見つけた時、京助は眉を顰めた。
「おや、誰かと思ったら」
案の定、工藤は京助を認めてニヤリと笑う。
「で、セットでいるんだ? お前も」
工藤は二人のテーブルに顔を覗かせて、千雪に言った。
「珍しゅうヒマなんですね」
「暇なもんか。接待だ」
確かに工藤の肩越しに、フジタ自動車の社長藤田が初老の男性とグラスを傾けているのが見えた。
京助は剣呑な目を工藤に向けた。
とっとと行けよ、コノヤロウ!
「あら、奇遇! こんなとこで逢うなんて」
そういう声に千雪が顔を上げると、小野万里子が立っていた。
「万里子さん、工藤さんなんかと飲み歩いてたらあかんで」
千雪はからかい半分忠告をする。
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