メリーゴーランド63

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 何なら理香も速水も誰も彼も、俺らの邪魔をする奴らは皆、散ればいいんだ。 
「どないしたんや? 怖い顔して」
 千雪に言われて京助は我に返った。
 いろいろと考えているうちにいつの間にか険しい表情になっていたのだ。
「おもろないいう雰囲気やで?」
「ああ、いや……」
 京助が言葉を濁すということ自体千雪は妙だと思う。
 千雪の疑問をごまかすように、京助はホールスタッフを呼んで、お代わりを頼んだ。
「お前は? ミモザでも頼むか?」
「ああ、うん」
 千雪のグラスは半分ほど残っていたが氷が溶けて薄まっている。
「それで? 明日だったか? 研二が上京するのは」
「ああ、せや。昼過ぎに着いて、まずは借りる予定の部屋に行ってみるいうから、三田村がどんな部屋か見てやるとかって」
「どこだって?」
「松濤のマンションらしい」
「ほう。借りるんだったら、あのあたり結構値が張るんじゃないのか?」
 富裕層の御曹司にもかかわらず、庶民の暮らし目線で見ることができるのが京助だ。
「そうやろな」
「うーん、安いワンルーム探せば八万くらいからあるかも知れないが、ダチが確か二十万とか言ってたな。芝ビルのオーナーの持ってるマンションとかならそんなとこじゃないか」
「ほんまに? ああでも、格安で貸してくれるいう話やけど、あんまり予想を超えとったら、考えた方がええかもやな」
「お前のアパート、家賃いくらだ?」
「六万ちょい。かなりボロやからな、けど父さんと探した時は風呂付で一DKであの広さならて決めたんや。父さんの弟子のひとりが東京におったから見つけられたんやけど」
 ついこの間のことのように、千雪は思い起こした。
「俺も後輩の部屋探し手伝った時に、いろいろ見て回ったが、あのあたりじゃ、東南角で日当たりがいい、しかも庭があって緑が近い上に駐車場があるなんてのはそうそうないぞ」
「背の高いマンションとかないからな。近くに」
 愛着があるのは、やはり父親と初めて一緒に上京して決めた部屋だからだろう。
「だが築四十年近いんだろ? そろそろ危ないぞ」
「何がや?」
「そろそろ建て替え時だろうってことさ」
「ああ、せやな。あり得るな。そうなったらどないしょ」
 眉を寄せて千雪は考え込んだ。

 


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