「まあ、俺と違うところは、京助はあの美貌に惚れたわけじゃないんだとさ」
速水が面白くもなさそうに言った。
「はあ?」
「美沙ちゃんはそこそこ美人だったけどさ、高校の時の彼女とか、ごく普通の十人並みだったぜ? 名探偵に惚れたんだとよ」
理香はそれを聞くと、ふーん、と言う。
「あたし、あの美貌を知らなくて、こないだ、名探偵と付き合ってるって紹介された時、別に違和感なかったけど? 雰囲気可愛かったし」
「そうかあ?」
「克也は噂に踊らされてるだけじゃない? 世間と同じように。マスコミが作ったイメージとか」
速水は理香にそう言われて、ひとり頷いた。
「お前までそれこそ俺の心理学者としての根幹を揺るがすようなことを言うなよ。文子にも前、似たようなことを言われた」
「あんたって、結構人を見る目ないよね」
「るっせえよ。それ、名探偵に言うなよ? それ見たことかと俺に突っかかってきやがるから」
理香は笑ってブランデーをゆっくりと飲み干した。
三田村から電話があったのは、翌朝九時のことだった。
「九時の新幹線? わかった。ほな、俺はここで待っとればええんやな」
研二はもう新幹線に乗ったという。
三田村が品川駅まで研二を車で迎えに行って、千雪のアパートに寄ってから芝が貸してくれるという部屋を見に行くという。
「三田村がいれば問題ないと思うが、貸してくれるって部屋ちゃんとチェックしろよ」
千雪が携帯を切ると、新聞を読みながら、京助が言った。
「どうせ俺がいたかて役に立たんわ」
「キャベツの値段も知らねぇやつが、いっちょ前に拗ねるなよ」
フンと京助は鼻で笑う。
ベーコンエッグにサラダ、パンとコーヒーという朝食をゆっくりとっていた二人だが、京助が食器をシンクに持っていくと、千雪も慌てて残りのベーコンエッグを食べ終えた。
京助にとっては久々何の予定もない休みだったのだが、千雪が研二や三田村と逢うというので、これから自分の部屋に戻って論文をやるという。
本音を言えば、京助は研二のことは気になっているのだが、同級生の集まりに首を突っ込むのはさすがに気が引けた。
今朝も早くから蝉の合唱がひっきりなしで、暑くなりそうな空の色だ。
何かあったらいつでも聞けよ、と言い残して、京助は千雪の部屋を出た。
千雪は京助が帰ってから、京都人が三人だけで大丈夫なんやろかとふと思い、京助がいれば確かに心強かったのになどと考えてから、それじゃあまりに京助に頼り過ぎだと首を横に振る。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
