「まあ、大の男が三人もおるんやし、何とかなるやろ」
千雪は大き目の黒のTシャツにスキニーパンツを履き、リュックに財布や念のためにタブレットを入れた。
研二に会うのは原夏緒の展覧会以来だが、やはり気になるのは離婚のことだ。
今までも研二の妻や子供のことをあれこれ聞いたことはないし、研二も自分の子どもを携帯の待ち受けにするような雰囲気ではない。
「や、俺、研二の携帯なんか見たことないし、ひょっとして、入れてるんかもな」
高校を卒業してから、というより、おそらく金沢へ一人で行った時に彼女と一緒にいた研二を見てから、研二のことをなるべく心の中から追いやろうとしていた。
だから最近の研二のことなど、千雪は何も知らないに等しい。
ただ、優しい笑顔だけはあの頃と変わらない。
だから、幸せなのかと思っていた。
素敵な奥さんと可愛い子供たちに囲まれた穏やかな幸せがよく似合うのだろうと、千雪は思っていたのだ。
ちょっと強面だが、職人気質で根はやさしい『やさか』のおっちゃんといつもニコニコと笑顔を絶やさないおばちゃん、一人息子の研二が家庭を持って三代目を継いでくれて、これ以上ない幸せな一家であるはずだったのに。
なんでや?
卒業式の日、研二と二人歩いた時は、明日への希望みたいなものでワクワクしていた。
それに、東京と金沢に別れて住むことになっても、ずっと俺ら変わらへん、なんて思っていた。
俺も研二も、こんな思うてもみなんだようなところに来てしもて、何でなん?
江美ちゃんかてそうや。
なんや、どこぞで俺らの何かが狂うてしもたんやないか。
ゲームやったら、もう一回分かれ道に戻って、今度はその道は選ばんようにするやろけど、現実は戻ることなんかでけんしな。
ぼんやりと何をするでもなく、つらつらとまた考え込んでいた千雪だが、チャイムの音にドアを振り返った。
「おう、千雪、元気しとったか?」
ドアを開けて見上げると、いつもの研二の笑顔がそこにあった。
「早かったな」
思わず笑顔になった千雪がリュックを背負い直して、スニーカーを履こうとすると、「せっかくやから、研二に部屋見せたり」と三田村がニッと笑う。
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