メリーゴーランド72

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「まあ、跡継ぐとかは、どうでもええけど、子どもらが元気に育ってくれたらな」
 しばしの間、誰も口を開かず、しんとなった。
 一体どんな言葉を研二にかけたらいいのか、千雪にはわからなかった。
「せえけど、よう、おっちゃん、東京に支店出す決断したな」
 三田村が沈黙を破った。
「俺が意気消沈しよるから、この際行ったらええて。向こうにおったらどうしても真由子や子供らがおらんことを考えてしもてあかんやろいうて、逆に親父に背中推されたわ」
「まあ、おっちゃん殺してもしなんくらい元気やしな。お前がこっちで成功したらええんや」
「簡単に成功とかでけるか」
 研二は三田村に笑って言い返す。
「せえけどな、芝ビルて、テナント入るん難しいて話やで? 当の芝さんが是非にて言うてくれはったんやし、成功させるつもりあるからやろ?」
 千雪は初めて会った芝のことを思い出した。
「小夜ねえが紫紀さんから聞いた話によると、芝さんはかなりなやり手で、プロデュースした店はほぼ当たるらしいて」
 それを聞くと、「せや、小夜子さんと綾小路さんの婚約パーティ、招待されとったんやけど、出張で行かれへんかって。えろ、盛大やったらしいな」と三田村が言った。
「まあ、小夜ねえが親戚とかも少ないとか言うから俺も駆り出されて、小夜ねえ、もう二度とやりとおないて、こぼしとったわ。俺も二度とあんなパーティ行きとない」
「まあ、でかいとこのしかも将来東洋グループ総帥の婚約パーティやからな」
「展覧会で知り合うたんやて?」
 研二も聞いてくる。
「まあな」
 知り合ったきっかけを話すわけにはいかず、千雪は言葉を濁す。
「小夜子さんが幸せになれるんならええんやないか?」
 柔らかい笑顔で、研二が言った。
「ま、結局はそこやからな」
「けど知り合って三か月? 早い展開やな」
 三田村が突っ込みを入れる。
「二人ともバツイチやから、案外、冷静やったみたいやで? お互い仕事もあるしな」
 千雪は、確かに昔、小夜子に猛を紹介された時のあんな高揚感はなかったような気がした。
「せやね、二人ともバツイチやから、もっとひっそりがよかったみたいやけど、何や二人とも初めての結婚より大騒ぎになってしもたて、文句言うてたわ」
 


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