新しいハイカットのスニーカーに足を突っ込んだが、紐を結ぶのに手間取っていると、外に出ている研二の声がした。
「ああ、千雪なら中にいるで」
だが、そこに現れた男を見た三田村が「あれ、お前、確か千雪の後輩の」と気づいた。
「佐久間です。お二人とも正月に千雪先輩のうちでお会いしました」
三田村は宴会の時にも千雪はこの後輩に素顔を見せていなかったようだったのを思い出した。
「ああ、千雪、ちょ、やばいかも」
慌てて千雪に知らせようとしたところが、もう千雪はドアを開けて出てきたところだった。
「何がやばいって?」
千雪はまさかそこに佐久間が立っているとは知らずに顔を向けた。
「ああああああっ! ま、真夜中の恋人!」
千雪を訪ねてきて、いきなり千雪の部屋から出てきた人物を見て、佐久間は指までさして大きな声を上げた。
「ん? 千雪、何の話や?」
もとより千雪のコスプレにさほど興味もなかった研二が、ドアにカギをかけている千雪に尋ねた。
「ああ、アホな心理学者が、勝手に人につけよった陳腐なネーミングや」
「アホな心理学者て、速水さんのことか?」
三田村がニヤニヤと聞いた。
その速水にも言うことは言ったし、どうせ理香にもばらしてしまった。
佐久間にウザいことを言われるのも、もう懲りていた。
「あの顔見るとついぎゃふんと言わせてやりとおなるんや」
「千雪、お前の悪い癖や」
研二がそんな千雪の頭を掻きまわす。
「あ、あの………」
呆然と、確かに無視されて佐久間は呆然と立ち尽くしていた。
「ま、さ、か、真夜中の恋人、て………」
「ええ加減にせえ! 今度そのアホな呼び名を口にしよったら、金輪際口なんかきいたったらんからな! わかったか!」
途端、ビシバシと千雪は佐久間の発言を切り捨てると、たったか階段を降りていく。
「ええのんか? 千雪、後輩にばらしてしもて」
三田村が研二の後ろから階段を降りながら言った。
「バラすも何も、人に追いかけまわされなんだら、ええんやし」
千雪はたったか前を歩く。
「まあな、お前のおっかけ、半端やなかったもんな。弁慶が睨みきかせて追い払うてくれなんだら」
「俺は別に追い払うつもりなんかないで。それより、後輩、なんぞ用があったんちゃうんか?」
研二は三田村の発言を訂正しつつ、置いてきた佐久間を気にかけた。
「休みにわざわざ来る用事なんかあれへんやろ」
遠ざかっていく三人の会話をぼおっと突っ立ったまま耳にしていた佐久間だが、やがて三人の姿が見えなくなると、やっと我に返った。
「どないなってんねん!!!!!」
思い切り叫んだ佐久間に、どこかの部屋の住人が「うるさい!」と怒鳴った。
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