十階建てのワンフロアを占める豪勢な部屋である。
何十畳あるのかリビングの真ん中には、スタンウエイのグランドピアノが鎮座しており、ソファセットからは一面ガラス張りの向こうにはきらびやかな夜景を眺められる。
「この上は?」
玄関横の階段は上に続いている。
「屋上庭園」
「贅沢モノや」
千雪は三田村を睨む。
「しゃあないやろ、俺の親、建設会社やってるんやから」
このマンションは、西日本建設が建てたもので、十階のこの部屋は三田村仕様にデザイナーに依頼した注文住宅だという。
「松濤のマンションでも俺にしたら、かなり広い物件やのに、想像を超えとるな」
研二が笑った。
「いくつ部屋あるんや?」
「四つ。うち二つは使こてない」
「こんな部屋に住めば、俺の部屋なんてウサギ小屋なわけや」
千雪が皮肉ると、「やから、ええ加減お前も引っ越せ言うてるやろ」と三田村が反論する。
「うーん、けど、俺にはあの狭い部屋がもう城みたいなもんやからなあ」
いや、京助がいると確かに狭いと感じることは幾度となくあるのだが。
それも何となく慣れてしまっているから不思議だ。
「せっかくやからお前も泊って行け」
三田村に言われて結局千雪も泊ることになった。
研二と千雪それぞれが陣取った、使っていない二つの部屋というのも十畳以上はあるベッドルームだ。
しかもそれぞれにバスルーム付きというシロモノである。
「海外の客を泊めることもあるからな」
部屋を使った時はその都度、それ以外は週二回、ハウスクリーニングを頼んでいるという。
「掃除もしたことないんか? お前」
冷ややかな目で千雪は三田村を見やる。
「うるさいわ、自分の使こたとこは自分で掃除もするし、大抵、自分の部屋におるから、こんな広いとこ一人でおってもおもろないしな」
あーあ、とまた桐島にプロポーズお断りされたことを思い出したのか、三田村はため息を吐く。
「こんなピアノ、俺、弾いたこともないで? 桐島と付き合うことになってから、入れたんや」
そう言えば、と、千雪は京助のマンションにも古いグランドピアノが置いてあったのを思い出した。
母親の形見でなければとっくに捨ててるとか言っていた。
大概、本やカップ、灰皿などで物置になっている。
今頃京助は、それこそジャージの上下に無精髭で論文と格闘している姿が千雪の脳裏に浮かぶ。
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