メリーゴーランド80

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 いや、それとも、久々の休みだから、どこぞに飲みに出かけたろうか。
 京助が歩くだけで女が落ちる。
 ウザい後輩の佐久間が京助のことをそんな風に言ったことがある。
 言い得て妙な例えだ。
 京助と一緒にいれば、周りの女性たちが必ずと言っていいほど京助を振り返る、秋波を送る。
 佐久間が羨ましがる要素を兼ね備えているわけだ。
 理香にしても、京助に男の俺と付き合うとるなんぞと言われても、たまにはね、くらいな感覚で京助を見とるだけなんかもしれん。
 彼女にとっては日向野はライバルでも、俺とのことはその程度にしか考えてないやろ。
 千雪は、高飛車なくせに、京助に日向野に宣戦布告しろなどと言われて、不承不承でもやってしまう理香の顔を思い浮かべ、やはり京助のことが好きなのだろうと思う。
 速水かて、京助と俺とのことなんか本気にしとるとは思われへん。
 いずれ遊びも切り上げて落ち着くわ、くらいなもん?
 まあ、速水が何を言おうが俺には関係あれへんけど。
 京助にはこれからいくらでも『ええ出会い』が待ち受けているんやろうし。
 何でかしらん、ここんとこ俺のことに意地になって、俺にべったり張り付きよって。
 京助は京助で自分のやりたいことをやったらええんや。
 何も俺のメシ作ったり世話焼いたりするために、あんな小狭い部屋へ通うことなんかないんやから。
 潮時や潮時や思うとるくせに、俺がつい、居心地ええからて先延ばしにしとるのんがあかんてわかっとるのにな。
 ざっとシャワーでも浴びて、冷たいビールにしようぜ、と言う三田村の言葉で千雪は部屋のシャワーを浴びると、置いてあったバスローブを着てリビングに戻る。
「千雪、どないした?」
 ぼんやり考えごとをしていた千雪が、はっと顔を上げると、研二の優しいまなざしがあった。
「あ、いや、研二はこれから新しい門出やからな、色々大変やろけど、まあ、研二なら何とか切り抜けて行けるやろ。それに引き換え俺は、なんや、どこ向っとるんかとか時々思うて」
「何をおっしゃるやら、天下のベストセラー作家が、来年には映画も封切られるんやで?」
 千雪のボヤキを聞きつけて、三田村が冷蔵庫から缶ビールを持ってやってきた。
「バスローブでビールとか、どっかの悪党どもの会合みたいやな」
 ソファに腰を降ろして千雪が笑った。
「ええやん。研二が正式に引っ越してきたら、いつでも会合やろうや」
 調子のいいことを言いつつ三田村は缶ビールをゴクゴクと飲み干した。

 


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