メリーゴーランド81

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「ああ、そや、小夜ねえも一度顔出せ言うとったで?」
 千雪が思い出したように言うと、研二も頷いた。
「小夜子さんのお陰で支店の話も決まったようなもんやし、親父にもちゃんとお礼に行ってこいて言われとる」
「ほんで、引っ越しはいつにする? てったいに行くで?」
 三田村が聞いた。
「次の月曜あたりには引っ越しだけ早いとこ済ませてと思うとる。向こうに戻ったら挨拶回りやら、いろいろ向こうは向こうでなあ。しばらく行ったり来たりになるか知れん」
「そうやな、ご贔屓さんとことか?」
「まあ、離婚して出て行くいうやつやから、大仰なことはやらんけど、世話になった人にはきちんと挨拶にいかんと」
 缶ビールを握ったまま、ため息交じりに研二が言った。
「お前、こっちに来たら来たで、芝さんきっとお披露目パーティかなんかやるんちゃうか?」
 三田村が言うと、「せやな、あちこち顔出さんとあかんかも」と千雪も同調する。
「脅かすなよ、俺、そういうのんが一番苦手なんや」
 研二が苦笑いする。
「そんなこと言うたら、こないだの小夜ねえと綾小路さんの婚約パーティなんか、想像を絶するで? でかいホテルの宴会場が人でごった返しとったわ」
 今思い返してもウンザリな状況だ。
「そらお前、東洋グループのイケメンCEOと大和屋のひとり娘で財界でも評判の美女が婚約やなんて、誰でも興味深々やったわ」
「CEOやなんてまだ決まってもおらんのにて紫紀さんボヤいとったで」
 三田村が言うのに、千雪は反論する。
「んなもん、あの人が次のCEOやなかったら、誰がなるいうねん。実力人気ともに財界でも飛びぬけとる。それより俺や。会社では次期社長とか言われよって、お偉方に見下されんようにて、ガチガチにバリヤー張りまくって、ほんま疲れるわ」
 はあああ、と三田村が大きな溜息をついた。
「まあ、この部屋に住んで当然くらいな業績上げんと、認めてもらえへんわな」
「うるさいわ、千雪!」
 千雪のからかいに三田村が言い返す。
「そういや、研二、お前、ジャケットの一つも持ってきいひんかったんか?」
 ふと思いついた三田村が聞いた。
「ああ? Tシャツくらいしかないけど、やっぱいるか?」
「当たり前や。スーツまでは行かんでも、ジャケットくらいはな、芝さんに会うんやろ? 面接も?」
「しゃあない、どっかで調達するか」
「せやな、俺のを貸したるていいたいとこやけど、それこそ小人の服着た白雪姫みたいなもんやからな」
 三田村がまじめな顔で頷いた。


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