若い時のアメリカでの結婚は、まだ紫紀が東洋グループとは関わっていなかった頃の話で、今の紫紀の地位を考えれば、当然大々的なものになることくらい念頭に置いていたに違いない。
あっさりしたプロポーズも、小夜子が負担に思って拒否されないようにと考えたのだろう。
優しい表情の裏はやはりかなりな策士だという気がする。
「結局どうすんの?」
「式はパリで内輪でということになったの。それでも向こうで、軽くパーティはやるらしいわ」
「え、いつ?」
決まったのか、と千雪は俄かに焦る。
「十一月の初め。披露宴は多分十一月の後半になるらしいわ」
「らしいて、そんな適当な」
「披露宴はもう紫紀さんにお任せすることにしたの。紫紀さんはプランナーに任せるって言ってらしたわ。場所はこないだのホテル」
「そんな投げやりな……」
見るからに小夜子は憂鬱そうな顔をしている。
「だって、こんどの披露宴は私たちの披露宴というより、会社の披露宴みたいなものよ。楽しいことなんか一つもないわ」
「うーん、ほな、研二のとこの菓子を披露宴に使うてもらうとか、難しいかな」
千雪はぽつりと言った。
「え、それは話が別よ。プランナーに話して、お菓子のことだけは私が対応します」
小夜子の顔が明るくなった。
「大丈夫かな」
「そのくらい私の意見を通させてもらわないと」
「え、小夜ねえの意見、通させてもらえへんの?」
「だって意見なんか言ってないもの」
笑顔を取り戻した小夜子はニコニコとミルフィーユを口に運ぶ。
「ただ、ちょっとね、結婚したら、やっぱりしばらくパリに住むことになるみたい」
「え、やっぱ、そうなん?」
紫紀の肩書は現在東洋グループのパリ支社長である。
それもあるだろうとは思っていた千雪だが。
「そうか、やっぱ小夜ねえパリ行ってまうんか」
千雪にとっては姉のような存在である。
これまで何とか東京でやってこられたのも、京助だけでなく小夜子の存在は大きかった。
「あら、ちょこちょこ帰ってくるわよ。うちの仕事はテレワークで向こうでもできるから、頑張るつもり」
「大和屋のパリ支社ってやつ?」
「あれは紫紀さんが考えたことだけど、それも視野に入れてるの。ああ、でもその前に難関よね、披露宴」
千雪は笑った。
back next top Novels
にほんブログ村
いつもありがとうございます
