もしあの時、京助が追いかけて来てくれていなかったら、心が壊れそうなまま、千雪はどうなっていたかわからない。
あの時も、とどのつまりは京助に縋ってしまった。
研二はもう自分を見ないのだという事実を突きつけられて、京助に頼ってしまったのだ。
不甲斐ない自分を千雪は嗤う。
どんだけ臆病なんや、俺は。
口を開けば毒を吐くし、いけ好かないやつには必要以上に言うし、犬猫とか苛めるやつなんか完全犯罪考えて抹殺してやるとか思ってるし、料理もできない、世の中のことも知らない、そんな自分のどこを京助は気に入っているのか。
速水には口が裂けても言わないが、速水の言うように自分がたかだか三流探偵小説家だとは時々思ったりもする。
それが小林千雪の正体だ。
自虐的に一人くすくす笑っていると、携帯が鳴った。
「小夜ねえ、どないした?」
夜の遅い時間に電話をかけてくるとか、何かあったのかと千雪は不安げに電話に出た。
「ごめんなさい、遅くに。今日忙しくて、連絡もできなかったから。研二さんのお菓子のことだけど、プランナーさんに言ったら、了解しましたって」
「え、ほんまに?」
それは研二にとっていい知らせだ。
「ええ。だから今度、千雪ちゃんから研二さんにアポイント取ってくれない? どんな感じにしたらいいか、ご都合のいい時にご相談したいから」
「もちろん、わかった。小夜ねえはいつならええん? 紫紀さんの意見は?」
「紫紀さんは私に任せるっておっしゃってるからいいのよ。早ければ今週の金曜日の午後なら、来週なら月曜、火曜の午後かしら。どこがいいか指定してくだされば」
「ほな、研二が店に伺うのんがええやろ。聞いてまたラインしとく」
「よろしくね。あ、そうだ、千雪ちゃん来週の土曜日って空いてる?」
何だろうと千雪は訝しむ。
「来週の土曜? 今んとこ予定はないけど」
「実は、綾小路さんが内輪だけでお食事会をしたいっておっしゃるのよ」
ああ、そんなことだろうと思った。
「俺が行く必要あれへんと思うけど?」
嫌な予感は当たるのだ。
「何言ってるのよ、千雪ちゃんが行かなくてどうするの。京助さんも出てもらうってよ?」
「京助は弟やから当然やろ」
千雪は反論する。
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