メリーゴーランド96

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 仮に京助がもし女で、俺がその彼氏や言うて挨拶に行ったとしても、端も引っ掛けられんかったくらいなとこやな。
 千雪は自分で例えておいてキモイ、と自嘲する。
 まあ、その分、大が読んでくれてて、曲がりなりにも名誉挽回させてもろたからええか。
 通り過ぎていく夜の灯りを車窓の向こうに見つめながら、千雪がそんなことを考えているうち、珍しく京助は口を閉ざしていた。
「兄貴がさ」
 ようやく京助が口を開いたので、千雪は京助を振り返った。
「俺のマンション、兄貴の持ち物なんだけど、下の階が空いたらしいんだ」
「へえ」
「お前、引っ越さねぇか?」
「は?」
 あまりにも予想外の話に、千雪は訝し気に京助を見上げた。
「お前なら、小夜子の従弟で家族みたいなもんだから、家賃とかいらねえし、物が増えたって言ってただろう」
「それはお前が増やしたんやないか」
 勝手にモノを増やしたのは京助の方だと千雪は抗議した。
 確かに本は次から次へと増殖しているが。
「確かにあの部屋は便利なんだが………前にストーカーに入られただろう」
「あれはパラノイア的なファンの仕業やったいうたやろ。あんなボロいアパートに誰がわざわざ泥棒になんか入るんや」
「だが、お前の知名度も日に日に上がっているし、映画」
「映画?」
「封切られたら、今のままじゃいられねえかもな」
「そら俳優さんとかやったらわからないでもないけど、俺みたいのにファンとか、アホか」
 そうは言っても、確かに偏執的で、独りよがりなオタクの気持ちはわからないでもない。
「大もお前の小説のファンだろ。それに去年の事件、あれも偏執的なある意味お前の小説のファンといえる」
 去年の事件のことは、思い出してもムカついてくる。
 無論、千雪の小説のファンだったらしい容疑者に対してもだが、どちらかというと警察の対応に関しては未だに完全に許せるものではない。
 コスプレだけで千雪のことを容疑者扱いした、あの強面の刑事もだが、追随した渋谷刑事のことも正直以前のように信用しきれなくなった。
「うちならセキュリティもかなりしっかりしてるし、十二分に広いし………」
「引っ越す気はない」
 千雪は断言した。

 


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