「要は展覧会自体、雰囲気を大事にすればいいんだろ。あの男なら、そのくらいわかっているだろ」
「気をつけろとか言うたくせに」
千雪は胡乱気に京助を見やる。
「それとこれとは別だ」
「けどな、俺だけやったらでけんかったようなことが、周りのお陰でいきなり現実になる言うのんがちょっとな」
京助は「バアカ」とふんぞり返る。
「原夏緒という画家に協力したいってやつがやるからいいんだろうが。お前一人でも俺と二人でもなかなかできるもんじゃないし、企画はプロに任せておけばいいってこと」
「まあ、三田村はドイツで展覧会の企画とかやったことあるみたいやけどな。あいつ自分の仕事もあるやろのに、とにかく勝手にやりよってからに」
「いんじゃね? 好きでやってるんだから任せておけって」
とりとめもない話をしながら、大晦日の夜も更けていく。
静けさを破って除夜の鐘が鳴り始めた。
「お、始まったな」
ぐい飲みを空けながら京助が微笑んだ。
「こんなゆっくり除夜の鐘聞くなんて久しぶりや」
「まあ、飲め」
京助は千雪のぐい飲みに酒を注ぐ。
その間にも時刻はきっちりと前進する。
「そろそろカウントダウンだな」
京助が壁の時計を見た。
父親が気に入っていた古いゼンマイ仕掛けの時計は、ネジを巻かないと動かないはずだが。
「そういや、ちゃんと時計も動いとる……」
言葉尻は京助の口づけに飲まれた。
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