海老芋の揚げ物や聖護院大根のゆず味噌あえなど京野菜を使った皿のいくつかは、午後になってようやく動く気になった千雪が京助と八坂神社に初詣に行ってきたところへ、早々にやってきて下ごしらえを始めた井原の手作りだ。
「そやそや、見たで、雑誌のインタビュー! 写真はぼけとるし、ちっさい顔写真だけやったけどな」
剣道部員OBの安川がニヤニヤと言い出した。
きたな、と千雪は内心げんなりする。
「んなもん、写真なんかいらんわ。編集者が教授に取り入りよって、しゃあなしに受けたんや」
不貞腐れた顔で千雪は言い放つ。
「いっそ、これが俺や、言うて、大々的にデビューしたらよかったやんか」
声を大にしたのは案の定三田村だ。
「何がデビューや、アホか」
「そうかてなぁ、もったいなさ過ぎやろ、そこいらへんのアイドルなんか太刀打ちでけへん美形やのに」
三田村は千雪が怒るのを承知で口にする。
途端、千雪は眉を顰めた。
それを見て、酒が入って気が大きくなっていた安川は千雪の機嫌を損ねたことに気づいて、そっとその場を離れる。
生意気で口は悪いが、見かけによらず正義感が強く、理不尽だと思うと上級生だろうが教師だろうが後先考えず突っかかっていく、そんなクラスメイトのことをみんな気に入っていた。
千雪はひとりでひがんでいたりしたのだが、今でも仲間の結束は固い、そのことは春に集まってくれたみんなと再会してよくわかったのだ。
さらに今夜は一人、高校在学時は結束から外れていただろう男もやってきて、ちょっと異彩を放っていた。
「おう、こっちいるんなら、今、みんな集まっとるからこいや」
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