暮れの三十日が千雪の誕生日なため、いつもせわしなく、千雪自身も忘れてしまっていたくらいなのだが、今朝起きたらまず居間に母の絵が飾ってあった。
「誕生日祝いだ」
『向日葵とこども』と題した絵は三十号で群れている向日葵の後ろに小さな子供が三人描かれている。
昔、原夏緒として個展をやった時にどこぞの実業家が気に入って買ったと聞いていたが、その実業家は会社の倒産で絵を手離し、巡り巡ってあるコレクターの手に渡ったという。
展覧会のために原夏緒の絵の消息を三田村が調査したところ、そのコレクターに辿り着き、展覧会に絵の貸し出しを依頼したのだが拒否されたと言っていた。
描かれている子供のモデルは千雪と研二と江美子だ。
「え、けどこれって、確か何とかいうコレクターが持ってて、離さへんいうてたやろ」
「ちょっとした取引をしただけさ」
千雪の指摘に、京助はひょうひょうと応える。
「取引て……ぎょうさん金積んだとかやないやろな?」
「金なんか使うか。頭使っただけだ」
「はあ?」
「俺が持っていた絵と交換しただけさ」
「どんな?!」
千雪は京助を睨み付ける。
「バリシニコフの小品。だったら交換してもいいってさ」
呆れるしかなかった。
ユダヤ系ロシア人でアメリカ国籍のバリシニコフといえば、フォビズムの流れを汲む著名な画家である。
多作家として知られているが、小品とはいえ本画なら高級外車くらい買えてしまう程の値がついているものもあるだろう。
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