「菊子がきたらまた撮るからな、あいつ自分が入ってないて怒りよるやろし」
三田村はニヤリと笑う。
その時、玄関のチャイムが鳴った。
「菊子か?」
「まだ八時前やで、誰や?」
千雪は壁の時計を見ながら立ち上がる。
「まあ、主役は座ってろ。俺が見てくる」
千雪を制して三田村が玄関へ向かった。
一人くらい増えても構わないだろうが誰だろう、と千雪はクラスメイトの顔を思い浮かべた。
「千雪、メガネ」
戻ってきた三田村が言った。
「は?」
「お前の後輩、佐久間ってやつ」
「はあ?」
訝し気に千雪は聞き返した。
「佐久間? あのやろう、何しに来やがった!」
千雪の代わりにそのやり取りを聞いていた京助が面白くなさそうに呟いた。
そういえばとポケットから携帯を取り出してみると、いくつか佐久間の名前が通話履歴に並んでいる。
千雪としても素のままでいる今、あまり会いたくない相手だった。
面倒やな……
心の中で呟きつつも、仕方なく眼鏡をかけながら玄関に出て行った。
「何や、急に、どないしてん、えらいめかしこんで」
らしくもないパリッとしたスーツに、コートを抱え、神妙な面持ちで佐久間は玄関に突っ立っていた。
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