やから嫌なんや、思い出しとうもない。
千雪は面白くない表情をあらわにした。
「今は三田村の彼女やで?」
「そうなんでっか?! そうかて、さっき」
「余興に決まってるやろ」
菊子が現れたのは十時になろうという時だった。
「もう、しつこうて、さっきのお座敷のヒヒジジイ!」
芸者姿のまま息せき切ってやってきた菊子に、佐久間はまた驚かされる。
「千雪の後輩。菊子、飲ませてええ気分にしたったれや」
菊子にこそっと囁いたのは三田村だ。
「へえ、千雪くんの大学の後輩なん? よろしゅうに、菊千代どす」
「菊ちゃん、えろ、早いんと違う?」
「次もお座敷かかっとったけど、同窓会あるから言うて断ったんや」
本物の芸者を前に佐久間はすっかり舞い上がってしまい、結局、新幹線のホームで見た光景の謎を解くと意気込んできたにもかかわらず、いい加減酔っぱらったあげく、すっかりそんなことは忘れてしまった。
入れ替わるように江美子や住田も帰り、後は飲み足りない連中が競うように飲み始めると、昨夜あまり寝ていない上に、結構飲まされた千雪は眠気に耐え切れずあくびをする。
「千雪、疲れとんのやろ、もう行って寝たらええ」
傍で研二の優しい声がした。
「ほな、そうさせてもらうわ……」
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