あんなチャラ男でも演技ができれば俳優と呼ばれるわけや。
千雪が漠然とそんなことを思ったように、大澤と紹介されたあのチャラ男はプロデューサーや俳優たちに妙にちやほやされていた。
「あなた、どなたです?」
「んなこたどうだっていい!! どんだけ出せば、よかったってんだ? え? 言えよ!」
いい加減千雪も腹が立ってくる。
「何か勘違いしてはるん違います?」
「とぼけてんじゃねーよ!! じゃあ、なんで安西を選ばなかったんだ?」
どうやら男はその安西というおそらくキャスティング候補だった俳優の関係者らしいことは千雪にもわかった。
「キャスティングに関しては俺は一切工藤さんにお任せしてあるし、申し訳ないけど俺は安西さんも大澤さんも知らんし、俺に文句言うんはお門違いやないですか? それに工藤さんが金なんかで動くと思うとるんやったら、それまでや」
少々きつい言葉で千雪は言い放った。
「でけえ面するんじゃねーよ!! 三文小説家のくせに!」
「三文小説家でわるかったやんか! その三文小説家に文句つけてんのお前やろ!! 誰や知らんけど、さっさとそこどいてんか!」
カッときた千雪は言い返す。
「何を!! このやろ!」
肩を揺さ振られ、いきなりガンと壁に頭を打ちつけられ、はずみで千雪は床に倒れた。
その時、さっとドアが開いた。
「てめー!! 外まで聞こえてんだよ! つまらねー言い掛り付けやがって!! 平岩か、てめー!! このやろー!!」
男に殴りかかったのは、何と大澤流だった。
体格も腕っ節も大澤の方が強い。
平岩と呼ばれた男は、殴られて千雪の横に転がった。
「センセーは何にもタッチしてねーんだって、聞いただろうが!! てめー、文句なら工藤にいいな!! もっとも折角実力があっても、センセを脅すようなことして、てめー、逆に安西の価値落としやがったな!!」
途端、平岩は青ざめた。
そして平岩は痛みを押さえてまだ座り込んでいた千雪の前にガバと土下座する。
「も、申し訳ありません!! 安西には何の関係もないんです!! これは俺の独断でやったことで! 俺はどうなってもかまいません!! 安西には…!!」
「ええからもう行きや!!」
千雪は苛ついて、頭を抑えたまま言った。
「どうか、安西には関係ないんです!!」
「わかった言うてるやろ! もう行け……て……」
するとあたふたと平岩はトイレから出て行った。
「センセ、おい、大丈夫か? 頭打ったのか?」
大澤は手を差し出そうとして、傍に眼鏡が落ちているのに気づいて拾いあげる。
幸いにも壊れていない。
大澤は頭を押さえているのが確かにさっき会ったばかりの小林千雪であることはわかっていたのだが、何かしらの違和感を覚えながら、目をきつく閉じたままの千雪の手を引いて立ち上がらせる。
「おい、大丈夫か? 医者行くか?」
「あ、平気や……もう」
千雪は目を開け、そこにじっと自分の顔を覗き込んでいる大澤の目と出くわした。
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