工藤から電話が入ったのは、シャワーを浴びて短パン一つでタオルを首に引っ掛けたまま、冷蔵庫から炭酸水を取り出して飲んでいた時だった。
「大澤には釘を刺しといた。お前に絡んだら降ろすってな」
千雪が電話に出た途端、工藤は言った。
「あいつもやけど、安西とかいうヤツの関係者、何やねん。いきなり人を脅して来よって」
「ああ。安西のマネージャーだ。最初安西と大澤が候補にあがってたんだよ。俺にしたらどっちもどっちだったし、たまたま局のプロデューサーが大澤の親と親しくて、大澤を推して来たってだけだ」
「それって親のコネとか、七光りってやつちゃいますのん」
工藤の話の内容に、千雪はいちゃもんをつけたくなった。
「まあ、たまたまだろ。深い意味はない。お陰で安西が別の役を貰えて、そっちがヒットするってこともないとはいえない」
「ヘリクツ言うたはる」
「それより、お前が帰っちまったから、監督の山根と脚本の久保田がお前に確認したいことがあるらしいんで撮影に顔を出せ」
「はあ? 俺のことは気にせんと勝手にやってくれて、言うて下さい」
顔合わせにも渋々行ったというのに、撮影など冗談ではない。
「来週の午後、スタジオの場所はおって知らせる」
千雪の言葉を無視して、それだけ言うと、工藤は電話を切った。
「勝手なことばっか言いよって! 一度で済むいうから顔合わせなんか行ったのに!」
千雪はイラつきながら冷凍庫を開けて、今夜の夕食を取り出した。
正確には、京助が作り置きしてくれているビーフシチューだ。
暑い時こそ、しっかりと食え、と千雪に命令した京助は、昨日今日明日と教授のお供で大阪に出張だ。
こういう時にはいないんやからな。
京助がいたら、思い切り今日のことをぶちまけて当たり散らしてやるのに、とシチューをレンジに入れながら勝手なことを思う。
シチューを食べ終えて缶ビールを飲み干し、ソファでまったりしていた時、携帯が鳴った。
「おう、どないした?」
ソファに寝転がったまま、怠惰に電話に出る。
「暑気払いに飲みいこ?」
三田村だった。
「ああ、ええな」
「いつがええ?」
「俺? ……うん、明日の夜とか?」
「よっしゃ、ほな、辻、誘うわ」
「わかった。俺、研二に聞いとくわ」
三田村もフィアンセの桐島はヨーロッパだし、暇なのだろう。
研二に電話を入れると、こちらもええで、という答えが返ってきた。
「せや、夏の新作、作ってみたんや」
「ほな、明日、飲み行く前に店に寄るわ」
お陰でイライラが解消する。
三田村にラインで研二もOKだと知らせると、辻もOKだと、六本木にある居酒屋の情報を送ってきた。
気の知れた仲間との飲み会は楽しみだったが、研二の店に行くことに少しばかり千雪の心は高揚していた。
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