周りからジロジロ見られるのは今に始まったことではないが、凝視されているのが千雪は気になった。
千雪が先に店を出てから五分と経たないうちに研二が出てきた。
「なあ、腹減った」
研二の顔を見るなり、千雪は甘えるように訴えた。
「マックでも寄ってくか?」
ふっと笑みを浮かべて研二が言った。
「六本木七時やったな。三十分しかないけど」
「ええわ、ちょっとくらい待たせといたら」
「ったく、お前は」
研二は苦笑しながら千雪の頭をかき混ぜた。
「頭、元に戻ってまうやろ、せっかくざっと整えたんやで」
千雪が軽く抗議すると、研二は笑って今度は手櫛で前髪を掻き分ける。
「これでええ」
「てっきとうやなあ」
二人は笑い合いながら道すがらにあるマックに入った。
「そんなん食うて、これから飲み行くんやのに」
研二は千雪がハンバーガーに齧りつくのを見て、呆れた顔を向ける。
「しゃあないやろ、腹減ってんもん。昼、学食のうどんだけやったし」
「京助さんの弁当ないと、やっぱあかんなあ。いつ帰ってくるて?」
「ん? 京助? 今夜帰るて」
「忙しんか?」
「せやな。京助、そのうち教授になるらしいし」
「お前は? 教授になるんちゃうのんか?」
「さあ。どっちでもええ。先輩方がいるしな」
ハンバーガーを食べ終えて、千雪はコーヒーを飲む。
「ま、お前は小説の方でもええやろし、好きにやったらええ」
「うーん、そやなあ」
探偵小説であろうと何だろうとただ書いているだけならいい。
しかし、映画だドラマだというのはやはり煩わしいことこの上ない。
千雪のジャケットのポケットで携帯がブーブーと唸った。
「……ったく、あのオヤジは………」
画面に浮かんでいるのは工藤の文字。
今度は撮影に顔を出せとか言っていたが、おそらくそれだろう。
「電話、出んでええんか?」
一度切れたが、またすぐに唸り始めた。
まるで千雪が出たがらないのを見越しているようだ。
「はい」
思い切り不機嫌な声で千雪が電話に出ると、「火曜の五時、Kスタジオだ。迎えに行く」といきなり用件を並べ立てる。
「え、ちょ………」
千雪が拒否る前に電話が切れた。
「クッソ、勝手なこと……」
「どないかしたんか?」
研二がちょっと心配そうな顔で千雪を見た。
「俺に、ドラマの撮影、顔出せ言うんや。人の返事も聞かずに電話切りよって、あのオッサン」
研二は「ええやん、ちょっと顔出すくらい」と笑う。
研二にそう言われると、千雪も何だかさほど怒るようなことでもないかと思えてくるから不思議だ。
back next top Novels