これからも研二とはこんな風に笑い合って行けたらいいと思うのだが、もし、研二に大事な人ができたら、俺の心はどうなるんや、と千雪はわからなくなる。
いやもう、匠の存在は、研二の中でそういう位置にあるのではないかという気がしないでもない。
匠の邪魔をする資格はないとわかってはいるのだが、感情は自分でもコントロールできない。
「そろそろ行くで」
研二が立ち上がったので、千雪ものそのそとスツールを降りた。
指定されたビルの前に二人がやってくると、「おっせえでえ!」と三田村が文句を言った。
「腹減ったよってマック寄ってたんや」
遅れたことを謝りもせず平然と千雪が言う。
「へえへえ、千雪ちゃんにはかなんわ」
そう言いながらがばっと千雪の肩に腕を回す。
「なんや、辻、顔が暗いで?」
研二が聞くと、「あ、こいつ、年上の彼女にフラれよって」と辻の代わりに三田村がへらっと言った。
「っせえで、三田村」
ブスッとした顔で辻が吐き捨てるように言う。
「よっしゃ、今日は飲むで!」
既に酔っているかのようにハイテンションで三田村が喚いた。
「かんぱあい!」
角のテーブルを陣取って四人はビールジョッキを掲げた。
それぞれが好きなものをオーダーしたのだが、千雪がサラダをつつきながら、「セロリ、いらん」と口にしてフォークを置いた。
「退けて食べればええやん」
辻が千雪を見た。
「あかんわ、この我儘王子。うち来た時も、マーガリンはいややバターやないと食われへんとかいうて」
その間に千雪の残したサラダを取り上げて研二が食べ始めた。
「研二がそやって甘やかすよって、こうなってんやで」
三田村が呆れて研二を見た。
「今更や」
そう言うと、研二はサラダを平らげた。
「京助さんも大変やなあ。この我儘偏食王子のメシ作ったはるんやろ?」
辻が感心したように言った。
「ちゃんとこいつの好き嫌い把握して、作ったはるで」
笑いながら研二が言った。
「せえけど、京助さんて、オールマイティやなあ。医学部で、空手部で、後輩の面倒見ええし、イケメンやし、ええとこのボンやし」
辻がひとつひとつ思い出すように口にする。
「ほんで料理も得意で、しかも千雪みたいな我儘王子のメシまで作らはると」
「料理はストレス発散や言うてたで」
いくらか反論染みたことを千雪が付け加えた。
「まあな、いくらオールマイティでも、そこにアイがのうてはでけんこっちゃな」
三田村がへらっと言う。
「どうせ今夜もお迎えにきはるんやろ?」
「来んでええ、言うたったし」
辻の科白を千雪は否定する。
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