「いやいや、絶対、京助さん来はる」
「せやな、またふらっと行先も言わんとどこぞへ旅に出よったりされるとかなんし」
辻と三田村が妙に意見が合っている。
「いくら何でも、飲み会のあといきなりどこぞへ行ったりするか」
フンっとばかりに千雪はビールを飲む。
「せえけど、ドラマの撮影顔出しとうないとか言うとったしなあ」
研二がボソリと言った。
「何や、研二まで、俺を疑うとるんか?」
「まあ、前科があるさけな」
しれっと口にして研二はビールを飲み干した。
「けど、ドラマとか女優に会うたりするんやろ?」
スタッフを呼んで、それぞれが追加オーダーをすると、辻が身を乗り出すようにして千雪に聞いてきた。
「女優、て、何かベテランさんやったで? 吉岡何とかいう」
「え、まさか、吉岡裕乃? めっちゃ美人でセクシィ女優やん! 代わりに俺、行きたいわ」
辻が目を輝かせる。
「行けや。モジャ頭してメガネかけよったら、わかれへんかもな」
そう言うと千雪はトイレに立った。
鏡を覗いた時、また嫌なことを思い出した。
主演俳優の大澤に、オッサンコスプレのからくりを見破られ、眼鏡も度が入っていないことまで知られてしまった。
イラついて思わず、煽るようなことを口にしてしまった。
ああいう時、研二がいてくれたら、その前に止めてくれたはずだが。
ちょっと自己嫌悪を覚えたままテーブルに戻ろうとした時、バタバタと人が前からやってきたので、千雪は避けようと身体を通路脇に寄せた。
ところが、三人ほどの女性が前に立ち塞がっている。
「あの、ちょっと聞こえちゃったんですけど、俳優さんなんですか?」
「ドラマとか出てらっしゃるんですか」
「ひょっとしてモデルさん?」
若い女性たちに口々に言いたてられて、千雪は困惑した。
クッソ、ウッザー!
眉を顰めた千雪が文句を口にする寸前、「すみません、プライベートですので」と女性らの前に研二がすっと立ちはだかる。
強面で身体が大きく威圧的な研二には、こういう時大抵相手は圧倒されて引き下がる。
「あ、ごめんなさい」
千雪は研二の後ろから、ぶすっつらのままテーブルに戻った。
「こないなとこでも女子を引き寄せよるし」
三田村がボソリと言った。
「ウザい」
言い切る千雪に、三田村はニヤニヤ笑う。
「まあ、高校の時のことを思えば、可愛ええもんや。マジ、すごかったもんなあ。文化祭の時とか、卒業式ん時とか」
「文化祭なあ、お前が無理やり千雪に白雪姫やらせたやつやろ?」
辻までが千雪の思い出したくないことを口にする。
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